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南極のタバコは安かった?

宮嶋茂樹(報道カメラマン)

 日本から南極大陸への定期便はたった一つ、1年1回の砕氷艦「しらせ」だけである。「しらせ」はれっきとした海上自衛隊所属の軍艦である。出航の2ヵ月前までに免税購入リストを提出しておかなければいけない。私は、「ホープ」の消費量と4ヵ月の南極滞在期間を計算し、さらに余裕をもたせて36カートン申請した。タバコだけではない、ウォッカ、ウイスキーもドサッと注文し、ぜーんぶ前払いにしておくのである。
 東京は晴海で「しらせ」に詰め込まれた私の「ホープ」は、そのまま艦内の倉庫に保管され、公海上に出てからやっと、補給長が解錠し私の船室に36カートン全部が届けられる。が、しかし、まだまだ私の「ホープ」の旅は続く。氷海を掻き分け、南極大陸沿岸、東オングル島近くで錨を降ろした「しらせ」から艦載ヘリで南極大陸内陸部に運ばれ、そこからさらに雪上車で1000キロの旅の果てに、やっと私の「ホープ」は煙と化した。もちろん南極大陸は、国際条約により、どこの国の領土でもないため、課税する国もない。それなのに「ホープ」はこの長い旅を続けているうちに、世界一高価で貴重なタバコになっているのであった。
 ところで喫煙する観測隊員は皆、私同様に自分の好みの銘柄タバコを大陸に持ち込むのだが、それらは、雪上車の中や昭和基地の食堂に無造作に置かれ、自分のものであろうが他人のものであろうが、勝手に灰にしていいという不文律がある。おかげで私の「ホープ」36カートンは、すべて復路の「しらせ」艦内で私の口元で煙となって消えていった。最後の1本は、寄港地シドニーの真夏の太陽の下、オペラハウスを眺めながらであった。生きて人間の住める大陸に戻ってこれた幸運を「ホープ」とともにかみしめたものである。

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