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山中温泉

 いつも次回の温泉地や旅館を決めるのは同行の編集者のMさんだけれど、毎回それなりの理由があって行き先が決定される。では、今回がなぜ山中温泉なのか、Mさんの話を聞こう。

 前回、東山温泉に行く直前に横尾さんから電話があって、「三島由紀夫の「美しい星」をもう一度読みたくなったんだけれど、家にも本屋にも見つからないので、どこかで手に入れてきてくれない」と言われたんです。で、その時実は内心ぞっとしたんです。というのも、このところ金沢に縁あってよく行くんですが、知人の出した金沢のタウン誌のタイトルが「美しい星」だって聞いたばかりだったんですよ。この符合は一体何。さらに第二波のシンクロニシティが起こったんです。三島の「美しい星」を読んだ横尾さんが言うには、この小説の物語の舞台は金沢と仙台だと。エッ、これってナニってまた私。だって、仙台は前々回行ったばかりでしょう。しかもですよ、横尾さんが仙台の秋保温泉で伊達政宗の夢を見たというので、その夢の裏付けを取るためにまあいろいろ経緯があったんですが、導かれるように青葉城の伊達政宗の像と遭遇することになった、という話はすでに横尾さんが前々回で書いていますよね。なんでもその像を背に前方の山並みに現われる空飛ぶ円盤とコンタクトを取るというシーンが「美しい星」に出てくるんだって。この親和力にはちょっと驚きません?
 さらに、まあ聞いて下さい。私が最近知り合った金沢の造り酒屋の福光屋の社長の福光さんは、かつて横尾さんが「フードピア金沢」に招かれた時、福光屋さんで公開制作をし、その作品を福光さんがコレクションされているなんて、会うまで全く知らなかっただけに、人間の縁の不思議さというか奇遇さに、今さらのように驚いているんです。それだけじゃないんです。横尾さんだってかつてそうだったんですが、この福光さん、知る人ぞ知る大のUFOマニアなんです。もちろん三島さんだってUFOサークルの連中とUFO観察に出かけたりして、だいたい社会的地位のある人が、こんな子供じみたことに熱中すりゃ、当然側の人たちは奇人、変人、狂人とまではいわないまでも反社会的人間として変な目で見るじゃないですか。福光さんだって金沢の知れた名士なんですよ。「美しい星」の家族は全員宇宙人で、その長女は金沢に住む金星人と恋仲になるんですが、なぜ三島さんが金沢の土地に目をつけたのか、いったい金沢という土地はUFOと何か深い関係でもあるんですかねえ。そういえば横尾さんと福光さんは金沢の夜に二人で巨大母船を視ているんです。それが健忘症を自認している横尾さん、そんな大事件をすっかり忘れていて福光さんに当時の目撃談を聞かされて、「そういえばそうだったっけ」と福光さんと寿司を食いながら、今さらのように驚いているんです。あんなにUFOで世間を騒がしていた横尾さんなのに、たとえ今はUFOに興味がなくなったとしてもただの忘れん坊になっているんですからね。あれじゃ、福光さんひとり浮いちゃいますよね。それにしてもこの連鎖的なシンクロニシティは驚異だったですね。横尾さんは「Mさんも無意識がだんだん顕在化してきた証拠ですよ。これからも偶然が必然となる共時性、つまりシンクロニシティはどんどん起こるよ」とユングの論を借りて、そう言ってくれるんですけどね。

 Mさんの話は、ざっとこんなもんです。福光社長と寿司屋で別れたあと、タウン誌「美しい星」の出版社に寄って、今最も美術界の話題をさらっている金沢21世紀美術館に、まだ行ったことのないMさんを連れて行きたくなった。まあ一度見ておくのもいいよと行ったら、たまたま館長の簑豊氏が在館されており、お会いすることになった。初対面の挨拶をすると、「東京都現代美術館で安藤忠雄さんに紹介されたじゃないですか」と、またまた忘れん坊の赤恥、簑さん大変失礼いたしました。まあほとんど初対面と同様だったけれど、妙にフィーリングが合い、磁石の働きのようなものを感じた。

横尾忠則の温泉主義

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