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酒と車は合わない

 だから西洋人の場合、たとえば日本に勉学に来ている女性が、ある大勢の宴席に加わっていた。次第にみんな日本的に酔っ払ってきて、そのときあるご老人が、うちとけるつもりでその外人女性の肩にぽんと手をかけたら、女性は本気でその手を払いのけた。まあまあ、というニュアンスはみじんもなく血相をかえている。ここにアルコール酵素一つと二つの差が出ている。日本だったら、払いのけるにしても、まったくしょうがないわねというニュアンスの、しょうがない猫にでも対するみたいな、酔っ払いに対する多少の思いやりが含まれている。それがアルコール酵素の一つしかない国での接し方だった。
 でも近年の日本人はますます西洋化の努力に励んでいるから、そういうこともすべてセクハラとして払いのける。西洋なみに分解酵素が二つあるつもりで、考え方だけ持ってくるので、人々の実情との間にギャップが生じて、気まずい世の中になってきている。
 というわけで話を戻すと、少なくとも車のハンドルに関しては、逆に西洋人なみのやり方ではまずいだろう。彼らは現実に平気かもしれないが、酒に弱い日本人の事故は当然増える。このことは自覚する必要がある。
 ぼくも車は好きだ。カメラが好き、と同じように車も好きなのだが、運転はできない。もうこの歳まできたので、これから免許を取ることはないだろうが、若いころなら取ってもおかしくはなかった。でもいざ考えると、車を運転したら人と会っても酒が飲めない、というのがまずブレーキになった。そんなに大酒飲みではなくふつうに飲む程度だけど、でも楽しい話をするのに酒を飲めないというのは、どうも我慢ができない。肉体的に駄目というなら致し方ないが、飲んでもいい体で飲まずに話が楽しくなるものか。それを車ごときで犠牲にはしたくはない。
 もう一つは東京に住んでいるから、ここで車を持ってもしょうがないと思った。地方都市なら話はまた別かもしれないが、東京ではみんな車を停めるのにあくせくしている。それを見ていて、まあ電車とタクシーにした方が気楽だ、と決めたのである。
 たしかに酒を飲んでも、慣れれば運転ができなくはないかもしれない。ぼくに経験はないが、自転車では経験した。昔、毎週土曜日は学校で教えていて、帰りは必ずみんなで酒を飲んだ。それで電車に乗って帰り、駅から自宅まで自転車、という時代があった。そのときはじめて酔って自転車に乗ったら、自転車が思うように進まないので困った。深夜である。意識はあって、このくらい平気だと思っているのに、ハンドルさばきが思うようにいかない。いかん、いかんと思ううちに横転してしまった。

赤瀬川源平 世相真面目にななめ読み

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