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酒と車は合わない

 それで懲りたのだけど、人間というのは時間がたつと懲りないもので、駅から家までが遠い。今日も酒は飲んでいるけど、よし、今日は大丈夫だ、と意識して乗ったら、こんどは乗れた。前はふらふらと横転したけど、こんどは真っ直ぐ乗れる。
 というので、それからはしばらく、飲んで電車を降りても、そこから自転車で帰っていた。たぶん意識の切り換え方を、体が覚えたのだろう。たしかに人間はそういうこともできるようではあるのだ。
 でも自転車でよかった。それも深夜だから、間違ったとしても横転して自分が痛い目に遭うだけだ。
 でもそれが車だったらと思うと、やはりゾッとする。飲酒運転をする人は、たぶんこの場合と同じように、ある程度体が慣れて、体が切り換えを覚えて、それでやっているのだろう。でも自転車と車では、スピードもパワーもまるで違う。
 それに自転車の場合、体がバランスをとりながら運行している。それが崩れたら、自分が倒れる。それを体が知っている。でも車はそれ自体が走っている。体はただ乗っているだけだ。体の自覚はなく、頭の意識だけで運転している。その分運転の崩れていく要素は大きいのではないか。
 でもせめてメディアが飲酒運転報道で盛り上がっているいまは、あらためる気持になりそうなものだと思うが、その気配もなく事故の報道が多発している。それがどうにも不思議だ。人生を棒に振ってしまう、ということを考えないのだろうか。
 昔に比べて、人の意識がゆるんできていることは確かだ。スポーツの場面などでは、昔の人間みたいにアガったりせず、平然と凄いプレイをやってのける若者が増えていると思う。そのことは頼もしいのだが、その恐れを知らぬという精神神経も、日常生活の中では要所でブレーキをかけることを知らないと、結局は破滅してどん底に落ち込んでから後悔することになる。

赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)1937年、横浜生まれ。『父が消えた』で芥川賞受賞。『ふしぎなお金』『目玉の学校』など、著者ならではの、まともに考えれば考えるほど不可思議な人間社会の謎を探究する目からウロコの名著多数。

赤瀬川源平 世相真面目にななめ読み

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