男の多くは会社一筋で生きている。是非はあろうが、それが現実だ。現実からは簡単には逃げ出せない。それどころか、現実になじんでくると、こういうことにもなる。
ぼくが週一で講義に行っている大学の女子学生が、前歯が二本抜けたままの父親のことを作文に書いてきた。息がもれるので何を言っているのかわからない。食べた物が歯のあいだからこぼれる。たえられなくなって言った。「お父さん、歯を入れて!」。お父さんは今もって聞き入れてくれない。そんなお父さんをお母さんはいつもこう言う。
「仕方ないわ。お父さん、仕事にしか興味のない人だから」
日曜日に夫婦げんかして、「お前が出て行かないなら俺が出て行く」と家を飛び出したお父さんの行った先は会社だったという話も聞いた。「いつまでもお若くて」、の「いつまでも」はいい。しかし、「いつまでも会社員」には悲喜劇がつきまとう。
いつまでも
(毎日新聞専門編集委員/「デイキャッチ・勝ち抜き時事川柳」家元 近藤勝重)
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