小松崎茂の異能ぶりは作品の多彩さばかりでなく、描くスピードの早さ、量にも現れていた。愛弟子の根本圭助氏によれば、最盛期にはまる三昼夜、72時間ノンストップで絵を描き続けたという。夏の盛りでも窓を開け放ったまま作業をし、巨大な蛾が仕事部屋へと飛び込んでくることも度々。そんな時、小松崎はおもむろに蛾を素手で掴み取り、そのまま握りつぶして、鱗粉が付いたままの手で平気で夜食のとうもろこしを原稿待ちでずらりと並んだ編集者たちにふるまうこともあった。とうもろこしを差し出された編集者たちはこれには閉口したが、どんなに忙しくても作品は自分ひとりで仕上げることを信条とし、時には眠りながらでも描き続けていた小松崎にとっては絵を描くこと以外に集中力は注がれていなかったのである。車もまだ珍しかった時代に描いたモノレールや、平屋建築しか見当たらない時代に描かれた超高層住宅、誰も想像し得なかったリニアモーターカーや宇宙ステーションなど、彼の描くメカニカルな近未来SF画の中には既に実現されたものや近く現実のものとなりそうなものが多数あるが、下絵を描くわけでもなく、悩む訳でもなく、ただすっと筆を手に取り、考える間もなくスイスイと絵を描いていく小松崎。「おそらく、描いている最中にはもう次の作品の構想が出来ていたのでしょう(前出・根本氏)」。かの手塚治虫をして「小松崎の描く未来予想図は必ず100年以内に実現される」と言わしめたほど未来を見通すその発想力、創造力は確かなものだった。
愛煙家であった小松崎は絵を描きながらもタバコを手放すことはなく、紫煙をくゆらせながら、まだ見ぬ宇宙や未来都市の絵を描いたり、生まれ育った千住の町並みを下絵もなく次々に描いていった。的確に未来を捉えていた彼のその紫煙の向こうにはどのような景色が見えていたのだろうか。
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フォトエッセイ(1)
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