二日目は町の西に位置する西【さい】の河原公園に行った。賽の河原を連想する小型「恐山」というところか。この公園に外国人の像があるのが不思議に思えたが、ドイツ人のベルツ博士だった。なんでも博士によって「世界無比の高原温泉」として世界に紹介されたという。
帰路、白根山に登ることにした。もちろん車でだ。以前にも登ったことがある。頂上の湯釜の神秘的な光景はあれから何十年も経っているというのに、いまだにぼくの脳内に消えないビジョンとなって鮮明に記憶されている。その忘れられない光景をもう一度見たくなったのである。初めて見る妻は驚嘆の声を何度もあげていた。ここは一体どこなのか。地球外惑星? それとも死後の世界? われわれ日本人にとってはむしろ死後の世界に共感するものがあるので、ここを日本人の魂の風景と見る方がピッタリくる。われわれが山から降りた途端、濃い霧で山は覆われてしまった。実にいいタイミングで湯釜を臨むことができた。えぐられたような火口に白を混色したようなエメラルドグリーンの湖が静かに張られて沈黙している。
山を降りる時、足元に宝石のようなキラキラした紫色のオヤマリンドウの花が小首をかしげてわれわれを見上げていた。
草津温泉
横尾忠則(よこお・ただのり)1936年、兵庫県西脇市生まれ。神戸新聞社、日本デザインセンターを経て64年からフリー。グラフィックデザイナーとして60年代から国際的な評価を受け、80年代の「画家宣言」以降は、人間の記憶や感情をテーマにした絵画活動を中心に、多彩な創作活動を続けている。
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