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草津温泉

 ぼくは温泉がニガ手である。その理由は行く度に熱を出して帰ってくる。いわゆる湯あたりというやつらしい。今までも温泉の取材旅行の話はあったが断ることが多かった。なのにこの連載を引き受けることになったのは、昨年銭湯をテーマにした作品を発表したのが切っ掛けで、毎回同行してくれる編集者のMさんの発案で、「銭湯の次は温泉にしませんか」と後ろからひょいと肩を押してくれたのが「勇気」になったのである。
 第一回は「草津温泉」。特に理由はない。Mさんが決めてくれたのだ。ぼくは他動的に行動する方が性に合っているように思う。その方が「導かれる」感覚が味わえるからだ。もしかしたら思わぬ出会いや発見が待っているかも知れない。妻同行の三人旅となった。 草津の位置関係もわからずに旅の人となったが、思ったより近かった。高崎まで新幹線、そこからは在来線で、長野原草津口で下車。タクシーで草津温泉に向った。町に入るなり硫黄の匂いが鼻をついた。町の中心には湯畑【ゆばたけ】というのがあって、その形がひょうたん型をしているが、これが岡本太郎の環境デザインとは知らなかった。温泉に芸術を導入した町がエライ。湯畑の周囲を取り巻く石柵には草津を訪れた百人の著名人の名前が刻まれている。何しろ神武天皇から岡本太郎までである。これも太郎さんのアイデア? と疑ってみる。
 湯畑の先端には、もうもうと湯煙を上げて落下する人工的な滝がある。滝壺はまるで青空がそのまま投影されているような青一色で幻想的だ。ぼくはこの湯畑の滝を配し、上空に草津を彩る著名人たちの顔を描きたい衝動にかられた。
 湯畑の中には沢山の箱が並んでいる。まるでとうふかコンニャクでも作っているのかと一瞬勘違いしたが、湯花の採集場なのである。湯畑を取り囲むように温泉宿やお土産屋が並んでいるが、おやっ? どこかで見た風景だなと思ったら、チェコのプラハの有名な広場を囲んだ様々の時代の様式建築群であった。ここ草津の建築様式はチロル地方の民家を模したスタイルと和風建築が渾然一体となって、まるで舞台の書割のような趣を呈している。

横尾忠則の温泉主義

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