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フォトエッセイ(2)

 そして76年に公開された「犬神家の一族」は、市川監督の持てる才気の全てが娯楽に結集した名作となり、大ヒット。爆発的な横溝ブームを巻き起こした。
 角川映画の第一作となる「犬神家」の演出依頼を、市川監督は大変に喜んだ。なぜなら市川監督は、熱心なミステリー小説マニアだったからである。日本ミステリー界の巨匠・横溝正史の原作を映像化するにあたり、市川監督は原作を徹底的に解体し分析した。そして辿り着いたのは「この物語は純愛物語である」という結論だった。
 つまり、愛に満たされない上流階級の一族の、愛憎劇として描く事によって、「犬神家の一族は、単なる猟奇連続殺人を羅列した凡百のミステリー映画とは違う、名作となりえたのである。
 更に市川監督が慧眼だったのは、金田一耕助役に、石坂浩二を抜擢した事だろう。
 石坂の起用を周囲は反対したが、市川監督はそれを押し切り、石坂浩二で行くと決定した。結果はご存知の通りである。それから30年。市川監督は06年に再度「犬神家の一族」を映画化。齢91歳にして、変わらぬ健在ぶりを示した。
 その長い映画人生を、市川監督と絶えず共に歩んで来たのが「煙草」である。
 一日に250本を煙にした時期もある程の愛煙家である市川監督。撮影時も煙草を燻らせ、本番中は煙草の煙が写り込まないかと、カメラマンを冷や冷やさせる事も度々だった。しかし、その「紫煙」というフィルターを通した視点があってこそ、数々の市川監督の映像美学をフィルムに焼き付けて来たのである。
 紋次郎の無宿渡世にくわえ楊枝があったように、市川監督の映画渡世には、くわえ煙草が常にあった―。

(文/山田誠二)

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