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片岡鶴太郎 俳優・画家

50代で仕切り直し

もしかしたら……と思うと汗が出る

木村― この雑誌の読者は、50代から60代の方が多いと思うんですが、50代からの人生を、鶴太郎さんのようにどうしたら楽しく実り多いものにしていけるか、エールを送っていただきたいんです。

片岡― 私も50歳になって、虚無感とか、男の更年期とか、そういうのを体験してるんですよ。
 先日も、20代ぐらいから本当にもうバリバリでイケイケの時代をいっしょに送った仲間と、しばらくぶりに二人っきりで飲んだんですけども、そういう話になるんですね。「鬱に入ったことある?」と聞くと、「ある」って言うんです。「うっそお、本当に?」「そりゃあ鶴さん、あるよ」と。
 やっぱり年齢を考える歳になってるのかなあと思うんです。同時に、みんな若いときに成功して、時代と寄り添ってやってきたという体験を持ってますから、50歳になって、ちょっと寂しさというものを感じてると思います。

木村― お金があるとかそういうことじゃなくてね。

片岡― ええ。いまもバリバリ仕事してるし、経済的には何の不満もないだろうけれども、やっぱり心のなかに不安があるんですね。
 それから、肉体的にも出てきますでしょう。あれだけみんな遊んだんです、本当に。それでいま50代になって、ガールフレンドとかと会おうということになっても、昔でしたらその日が待ちきれないぐらいドキドキしたもんですが、いまはその日が近くなると憂鬱になってくると言うんですね。
 それには肉体的な不安もあるわけですよ。前はもうギンギンにいけたけど、いまはもしかしたら……と思うと、ブワーッと汗が出るんですよ。それで当日になって、もうその不安がいっぱいになって、「ゴメン、きょうはできない」って言ってキャンセルしたっていうんですよ、そのデートを。その気持ちがものすっごくよくわかるんですよね。

木村― それはそのお友達のことですか、鶴太郎さんのことですか。誤解がないようにしなきゃね(笑)。

片岡― その友達が言ったんですよ。私もね、それに近いことがあったもんで、ウワァーその気持ち、よくわかるって。まあ全部友達のせいにしておきますけど(笑)。
 もちろん肉体的なこともそうでしょうけど、50代になって、戸惑ったり、いろいろなところに頭をぶつけたりしながら、また立ち直ってバランスをとりながら、仕切り直していくということなんでしょうね。

木村― マラソンでいうと、折り返しを過ぎてゴールが視野に入ってくるという感じですよね。

片岡― これからおそらく長生きするんでしょうね。ですから、長生きしたのに何にもやることがなく、ぼーっとしている生き方は嫌だなと思ったんですね。やっぱり絵をやっててよかったなと思うんですね。仕事となると受け身で、仕事がなくなったりすると、精神的に不安とか寂しさも感じるだろうけれども、絵というものは、自分が描きたければいつでも描ける、自分が主体になってできますからね。いまはそういう老後というか、自分の表現をするための準備をしている最中かもわかりませんね。

木村― いやあ、これから定年を迎える人たちにとっては、いいモデルになると思いますよ、鶴太郎さんの生き方というのは。

〈後記〉いい絵とは、描き過ぎぬ絵なのだとか。筆を多くしないため、「足るを知る」をモットーに、規律ある生活を心掛けているという。この日も、早く起き、玄米朝食を食べ、ジムでひと汗流したあと現れた。まるで修行僧の趣がある。これからも、その円(つぶら)な瞳で、「視(み)る」という行為を通して、多くの作品をクリエイトし続けるのだろう。鶴太郎さんに比べ、余りに煩悩多き我が身をつくづく恥じ入った次第である。(木村)

撮影=瀬戸正人、構成=森國次郎

木村政雄編集長 Special Interview

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