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むかしは子供が年金だった

 え、年金は年金、少子化は少子化、何が関係あるの、と、ぼくの頭はきっかけがつかめないと鈍いのである。
 だって、昔は子供が年金だったんだから、とMさんはいった。その子供が減ったわけでしょう。つまり年金が減った。だから子供とは別に、制度としての年金を作らなければならなくなったんですよ。
 うーん、そうか。一気にわかってきた。なるほど、子供は年金だったんだ。ある意味で。
 そういうことなら、昔はどの家でも年金があった。1口だけでは心配なので、2口、3口と年金を作っていた。つまり1人では心配なので、2人、3人と子供を産んで育てた。そうやってその「年金口座」にせっせと積み立てをして、自分が働けなくなった老後は、その年金の世話で余生を送る。
 鋭い。Mさんは東大を出ている。なるほど、経済で考えると、子供は年金なのだ。昔、子供をたくさん作ったのは、ある意味では老後のためだったのか。昔は病気もあるし、戦争もあるし、1人では心配だから、産めるだけ産んだ。それはもちろん親としての愛情あってのことだが、経済の方から冷たく見ると、見事な年金制度ということになる。
 そうやって昔は年金制度が充実していた。政府があえて通帳による年金制度など設定するまでもなく、それぞれが自立した人生設計をおこなっていたのだ。
 それがいつの間にか、卵が先か鶏が先かわからないが、少子化現象が出てくると同時に、政府による年金制度を作らずにはいられなくなった。
 昔は子供への愛情の中に、年金が含まれていたのだ。子供5人、つまり年金5口というのはざらで、ぼくの子供時代、子供11人という友達もいた。年金11口。愛情も11リットル。いや愛情は計りようもなく、このリットルに深い意味はないが、昔は生活の中にすべてが混然一体となっていたのだ。
 で、文明が進み、愛情と年金は分離してくる。一概に、進化というのは、一体であったものが分化していくことの過程らしい。
 そうやって、いまや年金は切実だけど、仮に年金制度が充実すると、子供はますますいらないことになって、少子化はさらに進むだろうということなのだ。

赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)1937年、横浜生まれ。『父が消えた』で芥川賞受賞。『ふしぎなお金』『目玉の学校』など、著者ならではの、まともに考えれば考えるほど不可思議な人間社会の謎を探究する目からウロコの名著多数。

赤瀬川源平 世相真面目にななめ読み

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