ここ何年か、猿が山から出てきて、畑を荒らしている。大根を抜いて、先っぽだけ囓ってポイで、また次の大根を抜く。次々抜いて畑がめちゃめちゃになる。
何とか猿退治をしようと、地域の人々は頭を痛めているが、あれこれやっても、猿知恵ですぐそれを擦り抜けて、畑の被害はいまも広がっている。メディアはもう飽きたので報道しない。
これは農業の場所での話だったが、最近は猿が街にも出てきた。街に出る猿はガードレールを何メートルも引っ剥がして持っていったり、アルミサッシをベリッと剥いで持っていったり、どぶの溝に伏せてある鉄蓋を全部外して持っていったり、畑と同じように街の隙を見つけては荒らしまくっている。
畑の大根は抜いたらその場で囓ってポイだが、鉄屑類剥がしたあとどうしているのか。
むかし小松左京の「日本アパッチ族」という小説があった。戦後のまだ焼跡闇市の残る日本に、見知らぬ人類が出没して、鉄屑を端から食べていく。ぼくは10代の終りか20代のはじめのころに読んだから、細かい筋は忘れたが、とにかく痛快な小説だった。
でもあれは小説だ。しかも戦後の焼跡闇市の残る時代の話で、いまはもうそれから50年、いや60年、もはや戦後ではないどころか、北朝鮮でさえ原爆を持っているのだ。そういう時代に、畑に猿が出るだけでなく、街に猿が出没して、鉄を剥がして持ち去っている。いったいどうしたことか。
猿は盗んだ鉄屑を山の中に持ち運んでいるらしい。そんなに大量の鉄屑を、山の中でどうするんだろうか。
噂では、猿が山の中でオリンピックか何かする計画だという。山の中で猿真似でスタジアムを造ったり、道路を造ったりしているというけど、猿に本当にそんなことが出来るのだろうか。
とにかく噂なのでわからない。さらに噂では、街でじっさいに鉄を剥がして盗み去っているのは、猿ではなく人間らしい、ともいう。密かに猿と通じている人間がいるらしくて、その人間どもが盗み出した鉄屑を猿に売り渡して、何か報酬を得ているという。
猿だから、報酬といってもお握りか柿の種か何かと思っていたら、ちゃんと金で買いつけているらしい。
猿が金を持っているのだ。猿から金をもらって恥ずかしくないのか、と思うが、最近は金のためなら何でもするという人間が多い。いまや金は人の命よりも重い、と思われている。
鉄を喰う猿
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