
「車」というものはない。それはベンツであり、コロナであり、ブルーバードという名前と固有の形をもった商品であり、機械である。シフトレバーもブレーキも、知っている人にとって、それをわかる位置に正確に描かなければならない―。
これは71年10月21日に読売テレビで放送が開始されたテレビアニメの企画書の冒頭の一文である。
ルパン三世―。
これまでのテレビアニメにはなかった、徹底したリアリズムと物へのこだわり。粋で大人指向のアニメ。今では知らぬ者のない人気アニメである「ルパン三世」の第1シーズンで、ルパンと「煙草」を描いた傑作がある。71年11月14日に放送された第4話「脱獄のチャンスは一度」がそれだ。
夜、埋蔵金を狙って忍び寄る影、ルパン三世―。ルパンが、埋蔵金の入った鉄箱の鍵を開けようとした、その時―。
警官たちの一斉射撃がルパンを襲った。銃弾に倒れたルパンを見下ろして、勝利の笑みを浮かべる男がいた。銭形警部―。
「殺しはせん、麻酔弾さ」
銭形はルパンを刑務所に送り届けた。しかしルパンは脱獄の名人。看守たちに、警備の強化を厳命したその時―。
「俺はルパンじゃない!」
突然ルパンが叫び、自分は脅かされて入れ替わった偽者だと言い、そして看守がルパンだ、銭形がルパンだと泣き喚いた。ルパンに下された判決は死刑。しかし収監されて1年にもなるのに、ルパンは脱獄する気配もない。それどころか相変わらず自分はルパンではないと喚き続けていた。そしていよいよ死刑執行の30分前―。
ルパンの相棒・次元大介が教誨師の僧侶に変装してルパンを助けようと独房を訪ねた。ルパンはこの一年、髭を剃らなかったため、誰だか判らぬ面相となっていた。
ルパンは次元の救出を拒否した。そして煙草を求めた。鉄格子を挟んで、次元はルパンに煙草をくわえさせ、火を点けた。煙草の紫煙越しに万感の想いで見詰め合うルパンと次元。そして死刑執行の時が来た。
ルパンは銭形に、髭を剃りたいと申し出た。銭形は了解し、看守に道具を持たせて独房に入らせた。その直後―。
「ルパンが脱獄したぞ!」と、看守の叫びが響いた。しかし―。
銭形が勇んで駆け付けると、変わらず髭もじゃのルパンが、看守といた。死刑執行室に連行されるルパンは、またも自分はルパンじゃない、と泣き喚いた。それを見送る看守が、銭形に言った。
「ついにルパンも毒ガスの餌食っという訳ですね」
その言葉を聞いて銭形の目が光った。
「ここは電気椅子はあるがガスはない」
ルパンは伸ばし続けていた髭を利用して、看守と入れ替わっていた。残念だったな、と拳銃を向ける銭形に、ルパンは平然と言った。
「と、すると、電気椅子に座っているのは誰かな―?」
銭形の顔はたちまち青くなり、その死刑待った、と死刑執行室に慌てて走った。それを尻目に、ルパンは悠々と表門から外に出た。出迎えた次元に、ルパンは言った。
最後の煙草は、胸に沁みたぜ―。
(文/山田誠二)
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