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球場をぎっしり埋める人々

 というので今年の開幕、球場はもっと隙間が目立つのかと思ったら、ぎっしりなので、とにかく豊かな気持になったのだった。巨人の性質はそうは変っていないようだけど、多少は反省しているようにも思う。やはり世の中の流れが少し変ってきているのだろうか。それを理論的に展開はできないけれど、開幕何試合かの球場観客のぎっしりを見て、ふとそんなことを感じたのだった。
 これもホームレスの減少と同じで、景気の好転と関連しているのだろうか。でもそういう記事はまだ出ていない。
 野球ついでにいうと、野球でオリンピックの世界一に、というような虚妄にとらわれるなということを、野球の好きな蓮實重彦さんが書いていて、これにはハッとした。
 野球はいずれオリンピックからは外されることが決っている。じっさいに野球が好きな地域は限られていて、つまりそれは環太平洋地域のもので、全世界の人気スポーツではない。でも人間、世界という言葉にはすり寄りたいもので、オリンピックで頂点に、という言葉についつられてしまう。蓮實さんは先年のオリンピックの野球(あれはセミオリンピックということになるのか)の光景に触れていて、プロ野球の選りすぐりのプレイヤーが、あんな客席がらがらのスタジアムで野球をするという屈辱を、何故味合わなければいけないのか、という論旨で、これには目が覚めた。
 一気に「屈辱」という言葉に達するところがこの人らしいが、でも確かにそうなのだと気がついた。何ごとも、好きだから夢中になってやっているだけだ。それを野球が好きでもないヨーロッパくんだりまで行ってやる必要がどこにあるのか。
 くんだりという言葉では、つい安土桃山時代のキリスト教を思い浮かべる。たかがヨーロッパの一つの宗教を、わざわざ極東アジアの日本くんだりまで布教にくる必要がどこにあったのか。
 野球は宗教みたいに布教されたわけじゃない。ただ日本の肌に合って好きになり、だんだん夢中になった。それを全世界に布教する必要なんて、どこにもない。全世界という言葉ほど、いいかげんなものはないと、ふと気がついたわけである。

赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)1937年、横浜生まれ。『父が消えた』で芥川賞受賞。『ふしぎなお金』『目玉の学校』など、著者ならではの、まともに考えれば考えるほど不可思議な人間社会の謎を探究する目からウロコの名著多数。

赤瀬川源平 世相真面目にななめ読み

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