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田淵幸一 北京五輪 野球日本代表チーム ヘッドコーチ

運も才能

巨人のつもりが阪神へ

木村― 卒業されて、当然プロですよね。東京育ちだから、当然巨人ですよね。

田淵― もちろん巨人ですよ。ところが、当時のドラフトはウェーバー方式といって、下位の球団から指名していくから、阪神が先に、僕を指名しちゃった。

木村― 問答無用だったんですね。指名されたら後の球団は指名できない。

田淵― ええ、嫌だったら、ノンプロに行くしかなかった。プロに行きたいという気持ちがあったんで、阪神に行くことにしたけど、なんだかんだで入団を決意するまで19日間かかりましたよ。阪神なんて、江夏さんや村山さん以外はどんなチームか知らなかった。

木村― 大阪って、土地勘もなかったでしょう?

田淵― ほとんどなかったですね。富田は南海へ、浩二は広島。明大の星野仙一は巨人に行きたがっていたが、巨人は島野修投手を指名してしまう。こうして巨人はわれわれを敵に回したんです。

木村― 運命のいたずらですよね。

田淵― それがよかったか悪かったかはわかりません。僕が巨人へ入っても、当時の巨人には名捕手森さんがいたから、クリーンアップに食い込めたかはわからんし、阪神へ行ったからこそ江夏とバッテリー組んでONと対決できたんですから、僕はもうなんの悔いもないですね。

木村― プロへ入られて、平松さんの球を見てすごいと思われたらしいですね。

田淵― 大洋との開幕試合の八回の裏かなあ、1対0で負けてて、江夏の代打でバッターボックスに立ったら、いまでも忘れない。ボールが見えなかったんですよ。六大学のボールとはぜんぜん違う。構えたら、もうボールが来てた。3球とも、ど真ん中の真っ直ぐで、3球三振。情けなかったですねえ。バットも出ねえのかと。これはいかんなということで、大学時代の上段の構えを変えたんです。で、次の日にホームランを2本打ったんです。

木村― それもすごいですね。

田淵― で、結局最初のシーズンはホームランを22本打ちまして、新人王をもらったんですけどね。

木村― 当時の村山さんと江夏さんは、やはりすごいピッチャーでしたか。

田淵― ああすごかったね。村山さんは指が長くてなんぼでも開いたから、とにかくONになるともうフォークボール、真っ直ぐもよかったけど。
 江夏は指が短くてフォークが投げられない。カーブもそんなに曲がらない。ほとんど真っ直ぐ一本でONを牛耳ってきたピッチングは、やっぱりすごかった。最初、彼のインコースの速球を捕ると、どうしても球に負けてミットが動くんです。で、彼に「ミットが動いたらボールになるで」って言われたんです。こっちもムッときて、鉄アレイを持って二の腕を鍛えたんです。それでミットが動かなくなったけど、それがバッティングにつながったんです。あいつの一言で、飛距離が出るようになったんじゃないかな。
 それから、王さんはなんで足上げるのかなって疑問を持ったんです。真似してみたら飛ぶんですね。で、いただいちゃった。長嶋さんは、バッターボックスで息が荒いんですね。何でか聞いてみたら、「息を吸ってへそのところに力を持ってくる。それで、打つときにハァッと吐く」。やってみたら、タイミングが合うんですよ。これもいただきました。だから、僕のバッティングフォームにはONが多少入ってるんですよ。

木村― それから2年目に広島の外木場投手から、すごいデッドボールを受けましたね。

田淵― あれは1970年の8月26日。ちょうど夏場でバテてるときで、ロッカーでうたた寝して、一回神経を寝かしてしまった。それで、外木場さんが投げたボールが見えない。で、次には、ギヤン、ボオォーンという音。そのときもう倒れてた。すでに意識はなく血がばんばん出て救急車で運ばれ、一週間意識なく……。プロ野球に耳当て付きヘルメットが採用されたのは、このアクシデント以後なんです。

木村― オールスター戦(71年)で江夏さんが9連続奪三振をやったとき、9人目の打者がバックネット側に打ち上げたファールを田淵さんが追おうとしたら、江夏さんが「追うな!」と叫んだとか。

田淵― 僕だって大記録なことは知ってたから、もしキャッチャーフライならわざと落とそうと思っていた。そしたらファールになっちゃったけど。それより、9奪三振したボールを江夏に渡さないでマウンドにほうっちゃった。そしたら王さんが拾って江夏に渡して、「ブッちゃん、あれはないだろ」って(笑)。

木村― ぜんぜんそんなことは眼中になかったんですか。

田淵― いや、記録は意識してましたけど、クセですよ。三振とったらポンと置いてた。

木村― 大事な記念ボールですもんね。おおらかなんですね。

田淵― A型ですから。

木村― いや、A型だったらけっこう細かいことにこだわるんじゃないですか。

田淵― そういう方面にはこだわらないんだ。

木村政雄編集長 Special Interview

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