素晴らしい美術のあとはあのジャンク・アート屋敷の「戦争博物館」へ。もう言うことなし。地獄の戦場。ハイ次に行きましょう。ちょっと待って、ひとつだけ言うことがあった。膨大な展示物の中になんとぼくの戦争映画ポスター「二百三高地」を発見したのだった。風雪にさらされたようにハゲチョロケになっていた。戦争のあとは教会(「那須ステンドグラス美術館」)。何だかストーリーができすぎているみたいだが、ステンドグラス美術館そのままが天国につながっているような至福感がある。さらに訪ねた所は天使美術館(「ダイアナガーデン エンジェル美術館」)。これも計算して来たみたいだけれど、たまたま帰りのコースに従っただけだ。最初の殺生石地蔵から始まって天使までは、まるで宗教アミューズメントパークを巡礼しているみたいだった。
もうこの頃は、ぼくの頭の中には絵のイメージが固まりつつあった。文明と文化の衝突。でもこれはテーマではない、テーマなどもともとない。観る人が決めればいいことだ。まあ要するに、自分を描けばいいのである。描いてみないと分からないけれど、今回もまた未完の人工庭園になることだろう。作品なんて永久に未完だからね。一日が未完で終るように、人間の一生にも完成なんてないじゃないですか。あるのは循環、メビウスの輪である。完成と未完は表裏一体で魂と肉体みたいなものだ。クラインの壺も同様である。温泉の湯も魂の雫みたいなもの。肉体の表面を流れる薄い膜が魂で、魂の洗濯ではないが月一回の温泉はアストラルボディの衣替えみたいなものだと考えている。
温泉の旅が本格的に始まるのはキャンパスに向かってからである。肉体の旅が終っていよいよ魂の旅が始まるのである。魂の旅とは三昧になることである。主観でもない、客観でもない、それを超えた幽幻界に遊ぶことである。温泉はそれをぼくに示そうとして出合ったのである。気の長い話だが、今やっとそのとば口に立ったばかりのような気がする。次回はぼくの郷里を徘徊しながら訪ねる温泉の旅になりそうだ。
那須温泉
横尾忠則(よこお・ただのり)1936年兵庫県生まれ。美術家。昨年、パリのカルティエ現代美術財団で個展を開催し高い評価を得た。近著に『横尾忠則Y字路』(東方出版)、『病の神様』(文藝春秋)がある。2006年日本文化デザイン大賞受賞。2007年兵庫県功労者(県勢高揚功労)表彰。現在「横尾忠則温泉主義」西脇市岡之山美術館(~9月30日)、新作版画展(名古屋のギャラリーAPA、6月1日~6月24日)を開催。「澁澤龍彦 幻想美術館」札幌芸術の森美術館(8月10日~9月30日)に作品を出品。また秋には、ソウルでポスターの個展、ミラノで絵画の個展を開催予定。
オフィシャルホームページ http://www.tadanoriyokoo.com
![[ファイブエル] 団塊世代のエンターテイメント誌 Entertainment Premium Magazine](/img/header_title_in.gif)

![[ファイブエル]バックナンバー](/img/side_backnumber.gif)