木村―― 昭和31年の『父子鷹』でデビューですね。
北大路― そうです。
木村―― 高倉健さんもこの年にデビューなさってますね。
北大路― あ、そうですか。僕はデビューした翌年に東京に移りました。それで東京の東映本社の方々が、東京の撮影所へ行って皆さんにごあいさつしようということで、連れていってもらった。そのときにはじめて健さんにお会いしたと思う。
紹介する方が「右太衛門さんの息子で、今度『父子鷹』でデビューした……」って言ったら、「あっそう、重役さんの息子? こりゃあ大事にしなきゃね」って言ってね。
木村―― 大スターとか先輩の息子さんじゃなくて、重役さんの息子という感じだったんですかね。
北大路― 自分のオヤジが東映の重役なんてことは、僕はぜんぜん意識してなかったけど、まあ端から見れば、甘やかされたぼんぼんで、もうどうしようもないというふうに見えるところもあったかもしれませんね。
僕は20代のときは、もうほんとにお酒飲みでね。
木村―― 想像できないですね。
北大路― いや、強いんですよ。だからついつい深酒になってしまって。
健さんの前ではちゃんとまじめな顔して「失礼します」って言って、友人とどっかへ行くわけ。で、ガァッと飲んで、まあ青春を謳歌してるわけですよ。それを健さんは、知っていたんですね。まあちょっと度が過ぎるなと思ったんでしょう。
僕が28歳のとき、前の日に飲んでるのを知ってて、健さんから電話がかかってきてね、引っぱり出されたんです。アスレチッククラブに。着替えて、地下のトレーニングルームで、健さんがいつもやってるトレーニングをやってみろということで、順番にやっていったんですが、半分もいかないうちに僕はもう貧血状態。そうしたら健さんは、「なんだ、この肉体は、これで舞台に立てるか」って、皆さんの前でやられたの。そこでもうほんとに徹底的に自分の肉体というものを知らされた。自分は過信してたわけですよね。少々飲んでも明くる日は大丈夫だっていうふうに思ってやっていたのをね、もう徹底的にやられた。そこが僕の生き方のひとつのターニング・ポイントになった。
それからそこのクラブに入れてもらって、通うようになって、たばこの量も減り、だんだんお酒の量も減り、食事のことも考えるようになり、それで『八甲田山』に入っていったんです。
木村―― そうですよね。八甲田山には、行けませんよね、前のままじゃあ。
北大路― 行けません。もし途中で僕が倒れたらもう大変な迷惑をかけることになるんでね。それに撮影の年は、70何年前の豪雪と匹敵する豪雪だったんです。だからぎりぎり間に合ったんですね。28歳でアスレチッククラブへ引っぱりだされてね。だからほんとに、いま思えばありがたいことだと思っていますね。
木村―― 高倉健さんというのは、北大路さんにとってやっぱり特別な人ですか。
北大路― でしょうね。僕は、親兄弟よりも健さんと一緒にいた時間のほうが長いと思うんですね。仕事じゃないときも一緒にいましたからね。だから、いろんな影響は受けていると思いますよね。『八甲田山』の徳島大尉と神田大尉というのは、劇のうえの設定ではあるんだけれど、僕の実人生のなかの健さんは徳島大尉なんですよ。なんかあっちゃあ健さんに相談したりとか、しかられたりとかやってました。
木村―― ああなるほどね。
北大路さんは、八甲田山だけでなく、撮影でずいぶんいろんなところへ行ってらっしゃるんですね。
北大路― 昔、小林桂樹さんに、「おまえは遠隔俳優だ」って言われたんです(笑)。八甲田山、ボルネオでしょ、ニュージーランド、アラスカ、イラン、それにトカラ列島では何ヵ月もロケしてます。
いちばん寒いのはやっぱり八甲田山。それからアラスカも寒かった。いちばん暑かったのはボルネオ。日中42度ですね。40日いましたけれど、3回皮がむけましたよ。
木村―― トカラというのは?
北大路― トカラ列島は『漂流』という映画でね、鳥島に漂着した船頭の話ですね。大自然のなかで、ほんとに漂流したような気がしましたね。それから戦争の経験はないけれど、雪中行軍まで経験している……。
俳優という職業をやっているがゆえに、旅もできますし、いろんな経験もできます。もう実体験に近いような気がする。
木村―― 何人分もの人生を生きてらっしゃるような気がしますね。
北大路― 役者にならなければあり得ないようなことが20代後半から30代にかけて、いろいろあったんですね。そういう作品に巡り会えたこと、いろんな人たちと出会ったこと、そのときの暖かみとかすごさが、現在64歳になるまでのある大きな心棒をつくってくれたような気がするんですよ。
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