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有森裕子 元マラソンランナー

体より気持ち

競技を通じて人間を表現する

木村― この「ファイブエル」は50歳からの人生を応援する雑誌なんです。有森さんは、ご自分が50歳になったとき、どうありたいと思ってらっしゃいますか。

有森― そうですね、やはり輝いていたいなと思います。私は年齢をべつに気にしてはいないんですが、年齢が最初に出るような生き方ではなくて、そのときそのときに輝いているカッコいい生き方をしてたいなと思います。

木村― どんどん活躍の場を広げていってほしいですね。陸上の世界からも、もっと発言する人が増えていくといいと思うんですよね。いまの陸上界の問題ってなんでしょうか。

有森― 私はちょっと危機感は感じてますね。盛り上がってるのはマラソンだけなんです。ライツのメンバーにもハンマー投げの室伏広治選手とか棒高跳の澤野大地選手とかがいるんですけど、陸上に興味がある人じゃないと知らないこともあるかもしれない。
 もちろん競技者は競技が表現の場なんですが勝ったとか負けたとかいうことだけでなく、競技を通じて人間を表現していかないと、いろんな人に興味を持っていただけないんですね。最後はやっぱり人間なんです。だから、そこをどれだけ意識して競技者が競技をしているかは、これからものすごく問題になってくると思うんです。
 それにはスポーツのエキスパートになる前に、子どもの頃から、スポーツのルールはスポーツだけじゃない、社会のルールと一緒なんだ。食事は運動をするためじゃない、生きていくための食事なんだ。あいさつはチームのなかだけでコミュニケーションをとるためじゃない、人間とコミュニケーションをとるものなんだ。そういうふうに、スポーツを考える前にまず人間を、社会を考えるということを小学生の段階で教えたいなと思っているんです。

木村― マラソンって、人生を投影してしまうというところがありますね。

有森― スポーツって、ずっとやっていて、なにがいいんだろうって自分で思うんです。私、休みの日にスポーツを見に行ったりするほど、スポーツが好きな人間ではないんですが、なにがいい、なんでやるかと言われれば、スポーツこそ人間の本当の感情といったものが表現できるからなんですね。ウソがないんです。だからこそスポーツによって人に感動とか、なにかしらの生きる力を与えることができるんですね。
 アートとかミュージックにも似たようなものはあると思うんですが、人によって評価が変わってしまうでしょう。スポーツは一番は一番なんですね。勝った者が強い。
 ですから、スポーツ省ってできませんかね。文部科学省では、もう無理だと思うんですよ。

木村― そうですね、教育の一環というとらえ方では、ちょっと無理があるかもしれませんね。

有森― ちょっと無理ですね、もうここまで大きくなると。スポーツ省が無理なら、スポーツ、アート、ミュージックを一つにまとめた文化省をぜひつくっていただきたいなあ、なんて漠然と考えているんですけど。

木村― いや、ほんとにそうだと思います。人材育成でもありますからね、あしたの人材を育てなきゃいけない。それはいいと思いますよ。

有森― そういう夢は持ってます。

木村― じゃあどんどん宣伝しましょうね、スポーツ省を。
 最後に、ランニングやウォーキングなんかで日々トレーニングしている50歳からのオジサンたちにアドバイスをお願いします。

有森― 50歳のランナーというのが一番危ないんですよ。レース中に倒れたりするのはだいたい50代です。

木村― 無理しちゃうんですね。

有森― そうなんです。60代の方はね、定年という区切りがものすごくいいブレーキになってる。ところが50代は、60代の方ほど自分の体に見切りをつけていない。40代の思いばかりですよね。頑張りすぎないように気をつけてほしいんです。40代とは違うんだよっていうことを、自分でわかってらっしゃらないとね。

〈後記〉「年齢が最初に出るような生き方ではなくて、そのときそのときに輝いているカッコいい生き方」か。いいアスリートはいい台詞を吐くものだ。特段力むわけでもなく、淡々と語るその様に、かえって意志の強さを感じた。これからも、次のゴールに向って駆け抜けるに違いない。爽やかな風を残しつつ、去っていく彼女の後ろ姿に精一杯のエールを贈りたい。(木村)

撮影=瀬戸正人、構成=森國次郎

木村政雄編集長 Special Interview

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