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段ボールの哲学

 みんな選挙には行ったのだろうか。ぼくは行った。選挙の通知が来て、一人一票である。せっかく一票あるのに、それを捨ててしまうのはもったいないので、投票しに行った。
 年賀状の宝くじみたいなものだ。どうせ当らないし、当ったとしても大したことはないとわかっていても、そのまま捨てるのはもったいない。年賀状はいちおう番号を確かめてから、処分している。
 投票所には、ボックスの中に筆記用具があって、鉛筆だった。それも軟らかく濃いめの、あれは2Bとか3Bくらいの芯で、ぼくの好みだ。全国的に同じだろうか。やはり投票というのは伝統ある行事だから、筆記用具もやはり伝統的、庶民的な鉛筆としたのだろう。どこのブランドだか見てこなかったのが残念。ブランドに関しては癒着の疑いが生じるので、さまざま各社の物を使わせていることも考えられる。
 しかしここでも輸入の自由化を迫られ、アメリカ製の鉛筆も加えろとか、中国製にしようかとか、いろんな争いがあったのかもしれない。で、いざ採用したが、がりがりして書きにくい。しかも異臭がする。係のものが調べたら、鉛筆の芯の中から段ボールが出てきて、国籍が割れた、ということだってありそうだ。
 選挙のあと旅に出て、朝、旅先で新聞を広げたら、小田実氏が亡くなっていた。ベ平連。そしてベルイマンが亡くなっていた。処女の泉。さらにカール・ゴッチが亡くなっていた。プロレス界の重鎮。つわものどもの夢のあと。偶然だけど、凄い組み合わせであった。いずれは自分の番だが、いつ、どんな偶然に組み込まれるのか、わからない。
 で、また芸術と現実の話である。昔この二つは、世の中できっちりと分離していた。芸術と現実は、はっきりと二つに分かれて安定していた。世の中はいまより低温であったのかもしれない。温度が上がると、分離していたものが一つにまとまりはじめる。これは何ごともそうで、政党でも、ある一つの思いが熱すると、それまで異なっていた二つの政党が一つに融合したりする。反対に一つの思いが冷えてくると、一つにまとまっていた政党の中の異なる要素が、だんだん分離して、二つ三つに分裂していく。

赤瀬川源平 世相真面目にななめ読み

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