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下呂温泉

 翌朝は白川郷から移築した合掌造りの旧大戸家住宅があるという合掌村に行き、世界文化遺産の片鱗に触れることができた。この合掌の里には演芸館「しらさぎ座」というのがあって、日替りで大衆演劇夢芝居なる公演が行なわれている。
 この手の芝居を見るのはMさんも妻もはじめてだが、ぼくは何度か見ているので、知ったかぶりをして二人を誘う。今月の出し物は市川市二郎一座の人情劇と、歌と踊りのショーの二本立て。一座といってもだいたい家族ぐるみで、この一座にも小さい子供が出演して客の人気をさらっている。客席は昔の芝居小屋を模して枡席になっており、足を伸ばしてくつろいで見ることができるが、後ろにもたれられないのでかえって疲れた。表に出ると、すでに役者が先回りしていて見送ってくれる。朝からゴテゴテの厚化粧の役者さんに送られながら帰って行くのだが、気のせいか足早になるのだった。こういうめったに見られない芝居も旅先でのハプニングと思えば愉しい。
 肝心の温泉について書くのを忘れていた。下呂温泉の泉質はアルカリ性単純温泉でリウマチや神経痛、病後回復などに効能があるそうだ。お湯は透明でさらっとしているが、そのくせ植物のようなお湯で身体が包まれているようでもあった。温度は体温よりやや高い感じで、決して熱くない。だからカラスの行水のぼくでも、長時間入浴していても苦しくならなかった。そのくせ、じわーっと額から汗が滲んでくるのだった。部屋に戻ってもいつまでも体が温かいままで眠りについた。今回は2泊3日の旅だったので、4回入浴できた。これで帯状疱疹の神経痛気味の後遺症も完治してくれれば幸いだ。

横尾忠則(よこお・ただのり)1936年生まれ。グラフィックデザイナーとして60年代から国際的な評価を受け、80年代の「画家宣言」以降は、人間の記憶や感情をテーマにした絵画活動を中心に、多彩な創作活動を続けている。現在、2006年3月2日から、パリのカルティエ現代美術館で開催される個展のための制作に多忙な日々を送っている。

横尾忠則の温泉主義

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