保険料は毎月きっちりと取る。これは絶対に怠らない。もちろんそれによっていざという緊急時の費用を支払うためだが、でもいざの時に保険加入者が請求しなかったら、じっと黙って支払わない、という隠微な体質がとうとう隠せなくなった。それが一社ならともかく、全部の保険会社がいっせいに謝罪したというのが、何だか無気味なのだ。
たぶんこの業界的常識の、黙約があったのだ。寝た子を起すな、というような、仲間どうしでじっと黙って栄養分だけをいつまでも吸い取ろうという、隠花植物みたいな生態がとうとう露見して、日光を浴びて苦しくなってきた。
前に住んでいた家から駅に向う途中に、広い林があり、広大なグランドがあり、大きなプールまであって、それがある有名な保険会社の持物だった。
保険会社というのは何も生産しているわけではない。ただ金をプールして、移動させて、そのことだけでこんな財産を築いて、何かおかしいと思っていた。単純な疑問である。
でも人間の世の中はいろいろ複雑に発達した結果、単純ではあまり儲からなくなった。複雑な方が儲かる。どんどん複雑にした結果の経済の細い陰道を通ると、物など生産しなくても、金を動かすだけで儲かる。複雑であるほど儲かる。むしろその方が楽に儲かるというので、何も造らず金だけ動かす組織が世の中のいちばん上に君臨している。
でも人間のもとは単純で、物を食べて生きている。物を造らなければ食べられない。物を買うのは小銭である。小銭世界というのはもともと物と循環して自律的にあるのだけど、そこからはみ出た複雑系の金だけの世界が、いまは小銭世界にのしかかってくる。
物と循環せずに、金だけがふくらんだ、株式から上の世界の親玉というものは、原爆みたいなものである。核兵器というものを大国は持ちたがり、持っているが、あれはじっさいには使えない。最終兵器といわれる。仮に使ったら、その先で自滅するのが見えているからだ。でもそれを持っていることが脅しにはなるわけで、その脅しの力だけでいまの世の中の切り札として君臨している。暴力世界はそうやって複雑な道筋をたどって抽象権力となっているわけだが、金儲けの世界も同様に、複雑な道筋をたどった末に、原爆と同じ抽象権力となって、小銭世界を見おろしている。
生命保険の頭と体
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