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「老境時間」の温泉旅行

 じつは今回は九州の温泉に行く予定で、Mさんが飛行機のチケットの手配から、なかなか予約の取れない人気旅館の特別室まで抑えてくれたり、屋形船での晩餐まで、全行程が計画されていたにもかかわらず、前日に過呼吸に襲われ病院に駆けつける羽目になった。さらに足の右親指裏にトゲが刺さったような痛みを感じ、次第に歩行困難になってきた。過呼吸の方は一日静養しておれば治るはずだったが、足の方は夕方になるとほとんど歩けない状態になり、病院で診察を受けたが原因不明で「少し様子を見ましょう」ということになり、これはもしかしたら「行くな」という信号ではないか、行く先で何か良くないことが待ち受けていないとも限らない……そんなわけで今回は旅行をキャンセルすることになったのである。以前にも一度体調を崩し、ドタキャンしたことがあった。
  ところが今回は翌日になるとウソのように足も治り、元の健康を取り戻したが、すでに何もかもキャンセルした後で、再度仕切り直しというのもMさんに迷惑をかけるだけだ。Mさんは、もしかしたら今回は行けないんじゃないかな、という予感につきまとわれていたらしい。それが現実になったので内心「やっぱり」と思ったに違いない。予期せぬ出来事で物事を中止せざるを得なくなったことは誰にも経験はあると思うが、あるいは単なる偶然として片付けてしまってもいいが、ぼくはこういう場合素直に事態を受け入れるようにしている。
  後で話を聞くと冒頭に書いたような盛りだくさんの予定が計画されていたそうで、じつに残念だったが、また日時を改めていつか行ければ行ってみたいものだ。それと前回の花巻温泉の絵を一五〇号大のキャンバスで制作しはじめたものだから、やたらと時間がかかり、この原稿を書いている時点で、まだ完成をみていない。やれやれ。もし温泉に行っていると、前回の絵を完成しないまま次の絵に取りかかることになり、何だか借金取りに追っかけられているような気分になるところだった。だから今回の中止は、ゆっくり絵でも描いていなさい、という天の声だと思って、花巻温泉の絵をゆっくりゆっくり描いているところである。


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