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その7 資産と金融

尹 煕元(ユン ヒウォン)

資産の換金性(お金への戻り度合い)

 資産という言葉をよく使う業務は会計でしょう。会計を勉強した人であれば、流動資産という言葉を聞いたことがあると思います。実務としての会計学は、資産をお金にする度合いを重視していて、企業の状況を表すバランスシートの一番上に、流動資産(逆側は流動負債です)を記すように取り決めています。確かに、自分の持っている資産を、お金に換金しやすい順に把握しておくことは大事ですね。でも、問題は順番よりも、それぞれの資産がどれくらいお金に戻しやすいか、ということです。残念ながら、今の会計学や経済学では、お金への換金度合いを定量的に教えてくれません。
  銀行等はお金を貸すときに、たいがい借り手から担保をとります。担保は借り手がお金を返済できなくなったときに、売却してお金を工面するためのものですから、お金への換金性と直結します。この点からすると、銀行等は資産の換金性の定量評価に関して、すごいノウハウを持っていそうです。でも、本当にすごいノウハウがあるなら、晴れの日に傘を貸して、雨の日に傘を取り上げるようなことはないような気がしますが……。
  実際のところ、資産評価について過去データから調べる統計的な研究はいろいろと行われています。ところが、資産の換金性を本質的に研究すること(「なぜ(why)」と「どれくらいか(how)」という疑問に明確に答えを出せる分析)はあまりなされていません。そこで、次節では、資産の換金性を見誤った事例を紹介し、その先にある金融の本質を研究する方法について記します。

お金と資産の交換所(市場)

 価値があるといいながら、お金に換金できない。これでは、自分の資産が実際に、価値があるかどうかわかりません。この困ったことに対する解決法として考えだされた方法論が市場取引です。市場で絶えず、お金と資産の交換をしていてくれれば、資産の価値をいつも知ることができる訳です。一考すると、市場はとても便利ですばらしい機能なのですが、過信すると大変なことになります。実際に、ノーベル賞学者が作った資産運用会社(米国のLTCMという会社です)は、市場を過信して一九九八年に倒産しました。いったい何を過信したのでしょう? それは、市場の価値評価機能だけに目を奪われて、資産をお金に換金する交換機能(最大交換可能量の問題)に注意を払わなかったのです(もしくは、読みが甘かったのです)。現在でも、多くの人は資産の価値(価格)には興味を持ちますが、換金性(取引量)についてはあまり気にしません。市場は資産の価値評価と同時に、資産とお金の交換を行う。この二つの機能を同時に考えることが重要なのです。
  市場の二つの機能(価格決定機能と資産交換機能)の結果である「市場価格と市場出来高」を同時に考えることは、実は物理学の本質に一致します。物理学は、ものの本質はエネルギー(アインシュタインの式 E=mc2)だといっています。エネルギーは、少し専門的な言葉を使いますが、示強変数と示量変数の掛け算として表されるのです。つまり、強さを表す数字と量を表す数字を組み合わせてものを考えることが物理学の本質なのです。価格は、まさに需要の強さを示す数字。そして、出来高はまさに量を示す数字です。この二つの掛け算が重要かどうかはわかりませんが、ものや動きの本質をつかむには、二つの数字でものを考えなければなりません。つまり、金融には本来、複眼的な見方が必要なのです。

尹 煕元(ユン ヒウォン)1964年、韓国大邸市生まれ。研究者。ソロモンブラザーズ証券会社にて、自己売買部門のトレーディング、アジア株の営業に従事。1999年、母校慶應義塾大学大学院へ戻り、工学博士号を取得。現在、研究のビジネス化に取り組んでいる。

ユン博士の金融流体力学

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