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横尾忠則 美術家

思いつき宣言

あんまり賢いとダメ

木村― 連載を読ませていただくと、前にその温泉に1回行ったことがあっても忘れてらっしゃるようですけど。

横尾― 温泉に限らず名所旧跡でも、前に来てても、全部はじめてのように思えちゃうんですよ。「あっ! ここはじめてだ。ここもはじめてだ!」って。前の記憶がないんですよ。

木村― そうなんですか。

横尾― ええ。それで、そこの場所へ行って、しばらくして、だんだん「来たことがあるのかなあ」と思ってきたりね。

木村― それは過去に執着しないというか、ひきずらないからでしょうね、きっと。

横尾― まあ、そういうふうによく解釈していただければ、そういうことかもしれないけども……。ただ単にぼけてるんじゃないかな。

木村― 家を忘れるなんてことはなかったですか。

横尾― 散歩に行って帰れなくなったことはありますよ。

木村― それはお幾つぐらいのときですか。

横尾― 3年ほど前です。それで近くにいた人に聞いたら、「いやあ、成城まで帰るのは大変だから、バスでお帰りなさい」って。散歩に行って、行きつくところまで行ってしまったんですね。

木村― 景色なんかに興味をひかれてずっと行ってしまったんでしょうかね。

横尾― そうなんですよ、「あ、ここははじめてだ、おもしろい」と思って、この角を曲がってみようって。知らない道にどんどん入ってしまうんです。

木村― 少年の頃からやはりそういう癖(へき)はあったんですかね。

横尾― 外国に行くと放浪癖が出ますね。

木村― 興味があるとほかが見えなくなるとか……、そりゃあまあ芸術家ですものね。

横尾― 何年か前に、小学校の通知簿を取り寄せたんですよ。そうしたら、1年から6年までの「注意事項」っていうのを見ると、「きょろきょろし過ぎる」「他人にちょっかいを出し過ぎる」「落ちつきがない」と先生が書いている。この3つはいまもそんなに変わらない。

木村― でも、それはほめ言葉ですよね。好奇心旺盛ということでしょう。

横尾― うん、「好奇心」て書いてくれればいいけど、「きょろきょろし過ぎる」じゃね。

木村― やっぱり子どもの頃からそんなに変わらないんですね、人間て。

横尾― 変わりませんね。10代に形成された人格っていうのは、たぶんそのままひきずっていくと思いますね。
 通知簿といえば、この前も高校の先生にね、「数学と体操が1で、生物とかが2で、よくおまえ卒業できたな」って言われたけど、「だって先生、5があるじゃないですか。4がある、3がある、2がある、1がある。全部ある人っていますか」って聞いたら、「そりゃおれへんな」って。

木村― 確かに全部ある人はまあ珍しいと思いますね。5は何だったんですか。

横尾― 5は図工。全部5なんて人もいますけど、そんな人はだめだな。

木村― かわいくないですね。

横尾― うん、かわいくない。突出した才能がないのは個性がない。全部が1と同じじゃないかね。

木村― オール5はオール1と一緒だというのはおもしろい。日本人ていうのは、どっちかというと、まあ5までいかなくても3か4の人間をいっぱいつくろうという国じゃないですか。

横尾― そうなんですよ。

木村― そこで閉塞感があって、5があっても1があってもいいというふうにすれば、ずいぶん変わるでしょうね。

横尾― いまは全部偏差値になっちゃってるでしょ。昔はね、クラスのなかに優等生もいたし劣等生もいた。それで優等生と劣等生がまた仲よかったり、そういう世界じゃないですか。

木村― そうですね。

横尾― そこで友情が芽生えたり、ちゃんとした教育の場としては、ぼくはそのほうが自然だと思います。違いがあることがね。いまみたいに親和性で人間を集めていって、類は友を呼ぶだけじゃダメだと思うんですね。これじゃ悪いことしか考えないですよ。

木村― そうですよね。

横尾― ぼく、出版社の人たちとの付き合いが多いんですけど、本が売れるかどうかって心配するから、「売れなくってもいいじゃないですか、ぼくの本が売れなきゃ、その反動でほかが売れますよ」って言うのね。

木村― それはそうですけどね……。

横尾― うん、売れない商品も必ず置いとかないとだめなんです。それが売れるやつの見本になるんですよ。
 チベットのお寺に行くとね、ちょっとおつむのおかしな人間をわざと住まわせているんですよ。それは修行者のための見本なんですよ。「ほんとに修行したらアホになる、アホにならなきゃ修行とはいえないよ」ということなんですね。だから、あんまり賢いとだめなんです。いまは賢い人間をつくろうとしてますよね。だから、芸術だって賢いし、経済も政治もなんでも賢い。だから破綻ばっかり起こしてますよね。

木村― 深いですね。このまま話しているだけでも一冊の本になるぐらいです。

木村政雄編集長 Special Interview

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