亭主関白の牙城
九州男児が説く
夫婦円満の秘訣は
なんと、
尻に敷かれること!?
オヤジたちを糾合して、珍しくも、今もっとも勢いに乗っている組織がある。全国亭主関白協会、略して全亭協。50代のオヤジたちを中心に47都道府県に支部を置く全国組織である。その頂点に君臨するのが、九州男児、天野周一会長。若い頃は火の玉小僧と呼ばれ、55歳の今も、チャブ台をバーンと引っ繰り返して怒鳴ったらさぞかしの迫力だろうと思わせるエネルギッシュな風貌。結成は1999年、天野会長を中心に11名の九州は福岡の熱血オヤジたちが集結、年々その勢いは留まるところを知らず、今や会員数は全国に4500名を誇る。と紹介すると勇ましいのであるが、全亭協の活動内容をだんだん知るにつれ、腰が砕けて笑いが止まらなくなってしまうのである。
「全亭協」結成の伝説の原点
全亭協結成を逆上ること1年。天野家にある大事件が起きた。それは後に「最後の聖戦」と呼ばれることになる伝説的な、全亭協の原点となる戦いであった。それまで九州男児の端くれとして、浮気はし放題(本人否定)、「風呂、めし、寝る」ですべてをすます典型的な亭主関白であった天野氏は、原因も何だったか忘れるような些細なことから奥さんと大喧嘩になり、ついに「出ていけっ! 誰のおかげでメシが食えるんだぁ」と怒鳴り上げてしまった。事情があって当時奥さんの実家はすでになく、帰る所がないのを知っていながらの、この非情な言葉である。これはもう、人間ではない。部屋の片隅にへたり込んだ奥さんは、寂しげに「どこに、帰ればいいの」とポツリと言葉をもらした。そして一筋の涙が……。「あの時、初めて本当の妻の涙を見たんです。ハッと気づいて、自分はなんということを言ってしまったのか。なんと自分は小さな人間だったのかと」。そして生涯で初めて土下座をして謝った天野氏は、この日を境に、「旧亭主関白」からの離脱を心に決め、正しい夫婦関係の在り方を模索し、ついに「新!亭主関白」像にたどり着いたのである。分かって見れば簡単なこと、関白の上には天皇陛下がいらしたという大発見だったのである。
ゴミ出し、風呂掃除、皿洗いをこまめにこなし、何とか妻の愛を取り戻そうとする日々、妻はかえって、浮気をしてるんじゃないか、熱でもあるんじゃないかと疑いを深める、それにもめげず真人間になるんだと続けるうちに、奥さんの眉間に深く刻まれた二本の皺が、いつしか薄くなるのを感じたという。飲み仲間にそんな話をしてみると、すでに夫婦間の危機をそれぞれに抱え込んでいた仲間も次々にカミングアウト。ここに九州男児の権威はもろくも崩れさり、「全国亭主関白協会」結成が決議されたのである。
「愛の三原則」「非勝三原則」
冷えきった家庭内に会話と笑顔を取り戻そうと活動を開始した全亭協は、会員それぞれの研鑽をもとに、まず「愛の三原則」を掲げる。つまり「ありがとう、ごめんなさい、愛してる」の三つの言葉こそ、凍ったままの妻の心を溶かす魔法の言葉だということが判明したのだそうだ。もちろん会員諸氏が試行錯誤の実践を通してたどり着いた大原則である。妻からの突然の三行半の理由の多くが、亭主からこの言葉を何十年と聞いていないからなのだという。次に「非勝三原則」。これは「勝たない、勝てない、勝ちたくない」ということで、なぜ勝たないのか? 喧嘩に勝てると思って反論すれば一時間ですむ喧嘩が二時間になるだけだから。なぜ勝てないのか? よもや喧嘩に勝っても、敵は20年前の浮気を引き合いに出してくるという最終兵器を持っているから。なぜ勝ちたくないのか? 喧嘩に勝利を収めたとしても、それは次の喧嘩で5倍、10倍になって跳ね返ってくるだけだから。新亭主関白としての深い心構えを説いているのである。
こうした実践活動から得たさまざまなノウハウを、天野会長自らが編集長を務めるフリーマガジン「リセット」のコラムで紹介するや、賛同の声は日を追って高まり、入会希望者が後を絶たない状況になった。「最初は仲間うちで、こういう技を使えよ、うちではそれが有効だった、なんていう話で盛り上がっていたのが、真剣に夫婦仲が悪いヤツがどんどん集まってきて、そうなるとこちらも真面目に考えて技を披露する。そうこうするうちに成功例も報告されるようになって、協会の内容がだんだん整ってきたんですね。今は新!亭主関白道段位の認定もして、最高位は十段。会長の私は情けないんですが、五段です」。
実は本誌の木村編集長も入会審査を受け、二段に認定された。下から二番目、まだまだ尻に敷かれ度が低いのである。段位が上がるにつれて、家庭内における亭主としての地位が弱くなっていくというわけである。昇段にはだんだん難しくなる質問に答えなければならず、五段以上は、論文審査があり、全亭協に寄与するような新技荒技を提供しなければならない。そうした活動によって、現在、全亭協には四五○の技が登録されており、オヤジにとっての家庭内の三大問題である「子供の問題」「嫁姑問題」「夫婦間問題」の解決策として活用されているそうである。ちなみに全国で八段以上は十数名しかおらず、十段にいたっては1人のみ。その板橋十段は65歳、さる大きな会社の社長だそうだが、無数の技を披露し、すでに即身成仏されていて「生きながらに死んでいる」そうだ。「もう気配がないんです。あまりに奥さんが強すぎて、自分の気配は常に消して生きている」(爆笑)という達人の領域である。十段の奥様はそんなに強いんですか、と当方が問いかけるや、「強いです、強いです、強いです」と恐れおののく天野会長。他人の妻であれ、強妻に対する恐れ方にはさすが五段の風格がある(笑)。
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