イカロスって? ロス(ロサンゼルス)のイカでも、イカをロス(無駄にする)ことでもない。ギリシャ神話に出てくる人物の一人である。伝説的な大工職人ダイダロスの息子。父・ダイダロスは王のためにラビュリンス(迷宮)を造ったこともあるのだが、ある日王の不興を買い、父子ともども迷宮の塔に幽閉されてしまう。
その塔を抜け出すために、二人は鳥の羽を集め、大きな翼を造った。大きい羽は糸でとめ、小さい羽は_でとめた。やがて翼は完成し、二人はともに翼を背につけた。父は息子に言う。「イカロスよ、空の中くらいの高さを飛ぶのだよ。あまり低く飛ぶと波しぶきで翼が濡れて重くなるし、あまり高く飛ぶと太陽の熱で_が溶けてしまうから」。
二人は天に向けて飛び立ち、あともう少しで海岸という所まで来たのだが、イカロスは飛ぶことに夢中になるあまり、父の忠告を忘れ天空高く舞い上がってしまった。ために太陽神の怒りを買い、_は熱で溶け、翼が砕けて海に落ちて死んでしまうという話である。
このイカロスの話には、「過剰な自信は、いずれ破壊を招く」という教訓が込められているのだが、私の目には、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などという言葉に酔いしれていたこの国が、近年、国際競争力の低下や一人当たりGDPの低下などもあって、その存在感の希薄化に悩む姿にダブって見えて仕方ない。あるいは、昨日までもてはやされていた企業や、そのトップが権威を失墜していく姿とも。
やはり、どこかで傲慢になっていたのかもしれない。成功への過剰な貪欲さのようなものが、いつしか周囲への配慮を忘れさせていたということなのだろう。すべて世界は相対である。いま優位であるということは、とりあえず暫定的に優位ということであって、未来永劫約束されたものではない。
戦後日本人の寿命は一・五倍になったのだ。中距離レースから長距離レースに移行したわけである。中距離レースのつもりで先頭を走っていたら、大阪国際女子マラソンの福士選手のようにいつか失速してしまう。そろそろ量ではかるGDPレースや、成長率レースなどは若いBRICS選手に委せ、美しくレースを完走することに頭を切り換えてもいいのかもしれない。
貪欲に右肩ばかりを上げて走っていては体に悪い。だいいちバランスもよくない。やはり、たまには左肩も上げてみないと美しいフォームにもならない。獲得にばかり目を向けないで、今ある資源をどのように配分するか、我々もポートフォリオ戦略を転換すべき時に来ているような気がする。
イカロスの父、ダイダロスは言った。「中くらいの高さを飛ぶのだよ」と。「中くらい」とは「いいかげん」である。「いいかげん」を目指す国になったとき、無機質に町を行き交う人々の顔に、きっと生気が蘇ると思うのだが。
「いいかげん」のススメ
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