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夫婦というものは

 久しぶりに、我が事務所にY氏が現れた。この前会ったのは昨年暮れのことだから、約三ヵ月ぶりということになる。年は私より上なのだが、前職の頃から何かと付き合いが深く、折に触れてはアドバイスを受けていた人である。
  クリエーターにしては珍しく、計数管理にも優れていて、几帳面な仕事ぶりには定評があった。今はもうリタイアされているのだが、時々お会いしては旧交を温めている。
  この日は、恒例となった大相撲春場所のチケットを届けていただいたのだが、話はY氏が掛かっているインプラント治療から、夫婦関係へ移っていった。何とY氏、目下家庭内冷戦の最中であるという。正月三日間も家を出てホテルで単身過ごしたのだとか。
  原因はY氏にあって、昨年秋に東南アジアへ彼女と旅したのがバレたのだという。何でも彼女が現地のホテルに忘れ物をして、その問い合せがあろうことかY氏の自宅、奥さんあてに入った。
  平身低頭詫びを入れたものの、許しを得られず、今日に到っているというわけである。こんな時、ペットや子どもでもいれば緩衝になって、いつの間にか元へ戻るのだが、夫婦二人とあってはそうもいかず、膠着状態に陥っている。
  それにしてもこのY氏、几帳面な仕事ぶりとは逆に、私生活ではぬけた所がある。以前奥さんとも行った、回転するレストランに彼女を連れて行き、たまたま(?)友人と来ていた奥さんに遭遇したり、踏切で運転していた車が立ち往生していた際に、2ドア車の後部座席に奥さんを残したままで愛犬を抱えて逃走したり。
  挙句の果てに、その愛犬に自らのカバンに入っていた彼女からのラブレターをくわえ出され、奥さんに発見されたり。十分、三下り半に値する罪を犯している。いや三下り半は夫から妻に与える離婚状だというから、これは逆か。
  何れにしても辛い話ではあり、身につまされる。(えっ、私? 私に限って、そんなことはない……こともないが、ここはY氏の話だけにしておこう)。
  何しろこのY氏、単身赴任の頃、一週間分の洗濯物をまとめて段ボールで奥さんに送ったり、電子レンジの使い方が分からず、あちこちに電話して迷惑をかけた程に生活適応力に欠けた人である。
  意地をはらないで、一日も早く詫びを入れるに限る。今のところは大丈夫だそうだが、食糧まで絶たれたら生存にもかかわる。財布の中に入れた全国亭主関白協会の会員証の裏面に書かれた愛の三原則、「ありがとうをためらわず言おう」「ごめんなさいを恐れずに言おう」「愛してるを照れずに言おう」を見せながら、Y氏に説いた。
「そういえば、ありがとうって言ったことないよな」と、心なしか寂しげな背中を見せながら事務所を出るY氏を見送りつつ、少し羨ましい気がしたのは何故だろうか。

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