いつの頃からだろうか。「あなた、早く帰ってきてネ、チュッ」と、玄関先迄見送りに来ていた愛妻が、「もう、帰って来たの、チェッ」に変わったのは。舌打ちのように聞こえる「チェッ」はもちろん空耳である。いや、空耳であって欲しいものだ。私の主宰する全国亭主関白協会(以下、全亭協)では、熟年離婚の危機を回避するための心と技を長年に渡って研究し検証を重ねてきた。そして門外不出とされてきた夫婦円満・家庭円満の「新!方程式」を、ついに世に出すことになったのだ。これが、数年後のノーベル平和賞を必ず受賞するだろうと秘かに噂されている「愛の三原則」である。その前にはっきり言っておこう。「チュッ」が「チェッ」に変わったのは亭主たちが、全亭協の憲法ともいえるこの三原則を知らなかったからに他ならない。脅すわけではないが、仕事、仕事で家庭を顧みなかった亭主には、大きな試練が待ち受けている。世に言う、妻からの突然の三行半である。そうとは知らず、現政権の「内閣支持率」などに一喜一憂している場合だろうか。問題は自分の「家庭内生存率」であることを肝に銘じるべきだ。全亭協調べでは、内閣支持率と亭主の家庭内生存率は、同じ運命をたどることが判明しており、どちらも三〇%を切れば、解散及び離婚に限りなく近付くという結果が出ているのだ。その点、全亭協五千人の会員は、愛の三原則で窮地を脱した。「ありがとう」をためらわずに言おう。「ごめんなさい」を恐れずに言おう。「愛してる」を照れずに言おうである。この三つの言葉は、言葉自体にパワーがあるようで、心など入れなくていい。気持ちは後からついてくる。勇気を出して言ってみれば、あら不思議。次々と奇跡が起こるのだ。晩酌の発泡酒がいつの間にか普通のビールに変わっていたり、好きなおかずが知らぬ間に一品増えていたりする。例えば、「お茶を飲みたいなぁ」と独り言を言ってみるといい。なんと、本当にお茶が出てきたりするケースも報告されている。って、全亭協会員は、普段どんな生活をしてるんだか。私のケースではあるが、「散歩でもしようか」と小さな声で言ったら、「はい」である。「は~!?」じゃなく、「はい」なのだ。これを奇跡と言わずに、何を奇跡と呼べばいいのか。愛妻から二〇数年近く聞くことがなかった「はい」である。肝が冷えたのは言うまでもない。愛の三原則恐るべしだ。さて、夫婦の心の距離がファラウェイになる原因は、会話とユーモア不足と断言しておく。それは、妻には「亭主改造願望」があり、夫には「旧亭主関白願望」があるから。そう、お互いに相手を変えようとするからに他ならない。もし、自分が変わろうと思えばどうだろう。相手は必ず変わるのである。そのためには、全亭協の「新!亭主関白理論」を学ぶのが賢明だ。亭主関白の語源を紐解けば一目瞭然。亭主とは、お茶を振る舞う人。つまり、もてなす人という意味。そもそも関白とは天皇の二番目の位。家庭内ではカミさんが天皇であるから、関白といえども、妻を補佐するのが役目であろう。したがって「亭主関白」の真の意味は、妻をチヤホヤもてなし、補佐する人、という解釈が成り立つのだ。亭主が変われば、妻が変わる。妻が変われば家庭が変わる。家庭が変われば日本が変わる。実践していることはあまりにも小さいが、言うことだけは大きい当協会に、異論、反論は一切受け付けない。(笑)
愛妻が「は~!?」ではなく「はい」と言った日
(あまの・しゅういち)1952年、福岡県久留米市生まれ。福岡県内で70万部を発行するフリーマガジン「リセット」、タウン誌「福岡モン」の編集長。「亭主が変われば、家庭が変わる。日本も変わる」をスローガンにした「全国亭主関白協会(全亭協)」会長。主な著書に『亭主力―夫婦円満、家庭円満の新!方程式』(角川SSC新書)、『妻の顔は通知表――新! 亭主関白宣言。』(講談社)がある。
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