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山口県 湯田温泉

 その昔、秋芳洞に行ったことがあるというのに、さっぱり想い出せない。だから今日この洞窟を訪ねるのは楽しみだった。確か大きい洞窟だったように思うが、それ以上のことはまったく記憶のストックから抜け落ちている。
  ぼくは子どもの頃から、洞窟に大変興味を持っていた。その興味は中学生の頃に読んだ南洋一郎や江戸川乱歩の少年ものの小説の影響からである。またその頃観たターザン映画や東映の映画などにも洞窟はよく出てきた。洞窟と冒険はぼくの中で深く結びついていて、なにやらこの世ならざる世界への通路のように思われていた。この世ならざる世界には二通りあって、ひとつは地獄、もうひとつは天国だった。洞窟の奥には得体の知れない恐ろしい奇怪な宮殿があって、そこには捕らわれた生け贄寸前の人間が死の恐怖にさらされているというような光景があった。その反対に天国的世界は、これは多分に想像の域を出ていないかもしれないが、暗い洞窟を抜けると目の前にまるで虹色に輝いた天国のような美しい風景がパッと広がり、絶壁を落下する幾筋もの滝があって、湖水には数人の裸女が水浴びをし、その頭上には色とりどりの極楽鳥が乱舞しているような、実に瞑想的で天界的光景が頭に浮かぶのだった。また江戸川乱歩の小説にも人工的な洞窟風景がしばしば描かれ、読者を怪しい世界に誘ってくれるのだった。
  またジュール・ベルヌの「地底探検」は地球の中心に降りていく洞窟小説(?)である。地底といえば長年ぼくを魅了し続けている地底王国アガルタ伝説がある。アガルタとは、もともと地球空洞説からきており、地球の内部は巨大な空洞になっており、そこには地球人類より遙かに進化した高次の人類、つまりアデプトと呼ばれる超人が住んでいて、その科学は想像を絶するもので、他の惑星間との交流もあり、地表のすべての情報を把握していて、地上の人間で意識の進化した者には見えざる助力を与え続けているというのである。
  ぼくが地球空洞説を知って四〇年ほどになるが、この頃ヨーガに興味を持ち、ヨーガの理論を学ぶ過程でシャンバラの思想に出会った。シャンバラとはアガルタ王国の首都の名である。
  だから洞窟に入るということは、ぼくの宇宙意識の深遠な領域に参入していくという感覚と結びつくのであった。地球上にシャンバラへの道が七つあるという。そのいずれも洞窟が通路になっているのであるが、そこを通過するためには、四次元体にならなければ不可能であるという。神秘主義者であったヒットラーはこのシャンバラに憧れ、地下空洞を利用してアメリカを攻撃する計画を立てていたという話も残っている。日本でも平田篤胤の「仙境異聞」によく似た話が残されている。そんな具合に、ぼくにとっては洞窟は神聖な領域の象徴でもある。まあ、ここでこれ以上詳しく述べることは避けるが、そんなわけで洞窟は一時ぼくの精神世界と深く結びついていて、ぼくの生き方を決定したほどであった。

横尾忠則の温泉主義

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