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日本には「非核三原則」があり、全亭協には「非勝三原則」がある

 「ちょっと、あなたっ!!」すごい剣幕でリビングに呼び出される。この時点で気を失いそうになるが、ここが踏ん張りどころである。日本には「非核三原則」があるが、全国亭主関白協会には「非勝三原則」があるのだ。「勝たない、勝てない、勝ちたくない」。この言葉を心の中で三回程リフレインすることが肝要とされている。これは夫婦喧嘩の際の亭主の心構えであり、家庭内のイザコザを一夜にして解決する大技でもある。不意打ちに近い「ちょっと、あなたっ!!」は、たいていの場合、何かを見つけているのだ。それは大方、メールに不適切な絵文字を発見された。内緒で買ったローンの請求書を発見された。キャバ嬢とふざけて写ったプリクラが発見された等であろう。って、私だけ? いずれにしろ、お先真っ暗である。が、全亭協の「新!亭主関白道」の五段以上を持つ我々は、「ハイ、奥様」と笑顔で迎え撃つ。その際、肝心なことは、ソファーにデン、と座っている愛妻の前にだけは座ってはならないことだろう。もし真正面に座れば、手が飛んできたり、灰皿などが飛んでくるケースも報告されている。第一、目が恐いっ。したがって、必ず横に並んで座るのがコツ。もし勇気があれば、あくまでも勇気があればの話だが、愛妻の手に軽く自分の手をのせ、「ごめんネ」と、理由を聞く前に謝るのが上級者である。全亭協調べではその時点で、妻の怒りが七〇%程度に軽減されることが検証されている。読者に、「ずいぶん弱い亭主だなぁ」と思われたら心外だ。なぜなら、即、「ごめんなさい」を消極的ではあるが、「白旗攻撃」と命名している。ひるがえって、夫婦喧嘩の原因は実に些細なことが多く、ほとんどは言葉の行き違い、及び神の悪戯ばかりではないだろうか。亭主が一〇〇%負けることにより、夫婦喧嘩は必ず終息すると断言しておく。もし、妻に反論しても、一時間の説教が二時間になるだけであり、「勝たない」。まして、亭主が攻勢に出ても、二〇年も前の、ほんの出来心の浮気を昨日のことのように持ち出してくるから、「勝てない」。万が一、目の前の夫婦喧嘩に勝利をおさめたとしよう。結果、次の機会に五倍、一〇倍になって跳ね返ってくるだけ。したがって「勝ちたくない」が正しいのだ。つまり、「勝たない、勝てない、勝ちたくない」の「非勝三原則」こそ、夫婦円満、家庭円満の「新!方程式」の根幹をなすものである。争わないことが、真の勝利者であり、勇者なのだ。ただの負け惜しみという説も根強いが……。さて、世の亭主族に、妻の「ごめんなさい」を聞いたことがある人はいるだろうか? 妻は、謝らない生き物であることを、亭主は、そろそろ自覚しなければならない。天野が全亭協を設立する九年程前、愛妻に恐る恐る聞いたことがあった。「君は、なぜ謝らないのか」と。その答えは、「謝りたくないからよっ」であった。もはや、理屈では説明が付きがたく、唖然呆然としている私に浴びせられた二の矢は、「あなただけには、絶対謝りたくないっ」。こうして「非勝三原則」は世に広まることになったのだ。孫子の兵法に、「戦わずして勝つ」とあるが、まだまだ甘い。全亭協では、「戦わずして負ける」が主流になっており、これを「無条件幸福」と位置づけている。気を失うのは、愛妻の攻撃をかわし、自室に逃げ込み、ドアを閉めてからでも遅くない(笑)。

(あまの・しゅういち)1952年、福岡県久留米市生まれ。福岡県内で70万部を発行するフリーマガジン「リセット」、タウン誌「福岡モン」の編集長。「亭主が変われば、家庭が変わる。日本も変わる」をスローガンにした「全国亭主関白協会(全亭協)」会長。主な著書に『亭主力―夫婦円満、家庭円満の新!方程式』(角川SSC新書)、『妻の顔は通知表――新! 亭主関白宣言。』(講談社)がある。

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