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第11回 成城界隈

【今回のルート】成城アルプス→仙川遊歩道→北口の桜並木→サクラビア成城→成城コルティ→桂花(ケイファ)

「どこかすごく遠いところに来たみたいだ」

 春爛漫とくれば、お花見。ということでやってきたのは、都内でも屈指の高級住宅街として知られる成城。豪邸とともに桜並木の多い街。
  駅前のケーキ店「成城アルプス」の喫茶室で待ち合わせ。貫禄のある成城マダムたちがトークに花を咲かせているのを見て、「女のアルプスだねぇ」と荒木さん。
  まずは仙川沿いの遊歩道を散策することに。川沿いに桜並木が延々と続く。まさに今を盛りと咲き誇り、目の前は一面の桜景色。
「いやぁ、みごとだね。どこかすごく遠いところに来たみたいだ」
  しかし、まさに花冷え、花曇り。ポツポツと雨が降り出して、水面に波紋をつくっていく。
「桜が泣いてるよ。ほら、涙が川に映ってるだろ。……今日は詩人だなァ(笑)。散った花びらが川を流れていくのが、またいいんだよね」
  東宝日曜大工センターの建物の白壁をバックに、繚乱たる桜を見て、
「おお、東山魁夷だ! 白いキャンバスに桜を描いたみたいだね。困ったなァ。今日は名作がどんどんできちゃうよ」
と熱写するアラーキー。
  日曜日とあって、家族連れやカップル、お花見客が行きかう。そんななか、いつもの日課のように、おじいさんと孫娘が犬を散歩させている微笑ましい光景も。
「やっぱり幸福論を撮っちゃうね」
  成城学園前駅の北側の長い桜並木を通り、老人ホームと呼ぶにはあまりにも高級な、ケア付き高齢者住宅「サクラビア成城」のあたりまで歩いて行って、それから駅のほうに引き返した。満開の桜に囲まれて建つ豪華な終【ルビ=つい】の住処【ルビ=すみか】を見上げると、どこからか祇園精舎の鐘の声が聴こえてきそう。
「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と、アラーキーならずとも、なぜか無性に梶井基次郎の小説の一節を口ずさみたくなる。満開の桜を見ると、無常を感じてしまうのは日本人の感性か。
  花の魔力に酔ったらしく、ふわふわとあの世に近づいた気分で、成城学園前駅まで戻ってきた。セレブな駅ビル「成城コルティ」を探検してみることに。武蔵野の雑木林をイメージしたという屋上庭園から新宿方面を眺めながら、ここでも続く浮遊感。
「桂花」で上品な中華料理を堪能し、いつになく夢見心地で成城歩きを締めくくったのでした。

荒木経惟(あらき・のぶよし)1940年東京生まれ。千葉大学工学部写真印刷工学科卒業。63年電通入社。64年、「さっちん」で第1回太陽賞受賞。71年、妻との新婚旅行を写した私家版『センチメンタルな旅』で写真家としてデビュー。国内外で出版した写真集・著書は300冊を越える。最新刊は、『東京愛情』(ポプラ社)、『アラーキーがゆく ベトナム編』(阪急コミュニケーションズ)、『エローマ、モノクローマ』(ワイズ出版)など。

文=豪徳寺春香、地図制作=データ・アトラス

トーキョー・アルキ 荒木経惟

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