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第12回 渋谷界隈

【今回のルート】セルリアンタワー東急ホテル→渋谷駅→センター街→スペイン坂→円山町→新泉駅→ひで

「渋谷は東京の谷底だ!」

「雑踏の中の恋人たち。いいねぇ」

 その街のいちばん高いところから眺めて、ビビッときたところを歩き始めるのが、アラーキー流アルキ。というわけで、渋谷はセルリアンタワー東急ホテルの四〇階にあるバー「べロビスト」で待ち合わせして、あたりを一望する。
「こうして見ると、渋谷は東京の谷底だなぁ。谷間にこそ文化がある!」
  とりわけ谷底にあるのが、ハチ公前のスクランブル交差点。「あそこに混じりたい!」と荒木さん。さっそく渋谷名物(?)の交差点の人波にのまれることに。
「あ、アラーキーだ!」と携帯電話で撮りはじめる若い女性。「よし、相撃ちだ!」と、荒野の決闘ならぬ、交差点の決闘をしたりしながら三往復。
  急に雨が降り出してきた。ブティックの軒先を借りて、しばし雨やどりしながら、人間ウォッチング。「歩いている人が、やっぱり新宿とは違うね」
  声をかけてくる若者たちに、「イエーイ!」と気軽に返す巨匠。
  センター街を抜けてスペイン坂を登る。
「いやぁ、変ったね」
  しばらく来ないとすっかり様変わりしているのが渋谷。すごいスピードで変態する生き物のよう。
  目の前のカップルに注目したアラーキー。彼女が彼氏の腰に腕をまわし、熱い視線を絡ませている。
「もう発情してるよ」
  円山町のラブホテル街はすぐ目の前だ。
「雑踏の中の恋人たち。いいねぇ。よし、跡をつけるぞ!」
  さっそく追跡調査をスタート。品定めするように、ゆっくりホテル街を歩くカップル。入りそうで、入らない。
「スリリングだねぇ」
  と思ったら、コンビニへ入っていった。食べ物を買ってホテルに籠もるのだろう。まちがいない。ここで追跡は終了。
「この通り、好きだなあ」
  しっとり雨に濡れた通りを、寄り添って歩く恋人たちの後姿。こちらの二人は、きっと情事の後だろう。まったりと心地よい疲労感が漂っている。
  神泉駅まで降りていく。踏切近くのトンネルは深く深く地底へと通じているようで、吸い込まれそうだ。渋谷はあちこちに冥界への通路が口を開けている。
  創業三三年という、おでん割烹「ひで」へ。わずかに残る円山芸者を呼べる店。お忍びデートにぴったりの小さなお座敷でなごむ。まさに黄泉【ルビ よみ】がえり。熱燗であたたまり、生還した気分でありました。

荒木経惟(あらき・のぶよし)1940年東京生まれ。千葉大学工学部写真印刷工学科卒業。63年電通入社。64年、「さっちん」で第1回太陽賞受賞。71年、妻との新婚旅行を写した私家版『センチメンタルな旅』で写真家としてデビュー。国内外で出版した写真集・著書は300冊を越える。最新刊は、『東京愛情』(ポプラ社)、『アラーキーがゆく ベトナム編』(阪急コミュニケーションズ)、『エローマ、モノクローマ』(ワイズ出版)など。

文=豪徳寺春香、地図制作=データ・アトラス

トーキョー・アルキ 荒木経惟

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