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第3回 嫁姑の確執――

 相続について定める民法において、嫁は夫の親の相続について相続権が認められていません。もし、相続権が認められていれば、次の相談もなかったのではないでしょうか。

夫に先立たれて

 前田千代子(仮名)さん(七五歳)は一年前に夫・一郎(仮名)さんに先立たれ、一家の大黒柱を失いました。それ以後、夫と買った一戸建ての自宅(五〇坪)に独りで暮らしています。一郎さんとの間には長男・賢治(仮名)さんと長女・明子(仮名)さんという二人の子供がいますが、もう二人とも結婚して、近隣の町でそれぞれ暮らしています。千代子さんは、最近、体の具合があちこち悪くなり、入退院を幾度も繰り返していました。入院中、長女の明子さんは足が不自由であるにもかかわらず、夫婦揃って何度も見舞いに来てくれましたが、それにひきかえ長男の方は、賢治さん、そのお嫁さんも一度も来てくれなかったそうです。相談者である千代子さんは言いました。「長男の嫁なのだから、一度ぐらい見舞いに来るべきなんです。こんな冷たい嫁とは、今後は縁を切りたい」。さらに、「長男には夫が残してくれた財産を一切やりたくない」とも言いました。
  一郎さんが残した財産は自宅のみですが、いまだに未分割なので、まず一郎さんの遺産分割をしなければなりませんが、その分割により一郎さんから千代子さんが相続する分(この時点では、千代子さんは、自宅のすべてを自分が相続できるものと思い込んでいました。)も、千代子さんが亡くなれば、賢治さんと明子さんが相続することになります。その分を、すべて遺言で長女の明子さんだけに相続させたいというのです。

遺言では解決できない

 そのような遺言があったとしても、賢治さんは一郎さんからの法定相続分として四分の一、母の遺言に対する遺留分として八分の一(〈母の一郎さんの相続における法定相続分の二分の一〉×〈賢治さんの母の相続における法定相続分二分の一〉×〈遺留分として二分の一〉)の合計八分の三、一方、明子さんは一郎さんからの法定相続分として四分の一と母の遺言として八分の三(〈母の一郎さんの相続における法定相続分の二分の一〉―〈賢治さんの遺留分八分の一〉)の合計八分の五となります。つまり、遺言があったとしても、千代子さんの主張どおりに、自宅のすべてを明子さんに相続させることはできないのです。
  私は千代子さんに、次のようにアドバイスしました。「あなたの遺言を急ぐよりも、あなたが生きている間に、一郎さんの遺産についての分割を完了することが必要です。あなたの主張する遺言だけでは、問題は何も解決されないばかりか、逆に一郎さんの遺産をめぐる争い(争族)の引き金になってしまう恐れがあります。一郎さんの遺産をどのように分割するのか、賢治さんご夫婦と明子さんを交えて話し合うことが大切ですよ」
  その後、賢治さんと話がついたのでしょうか、千代子さんと明子さんが私を訪ねることはありませんでした。

嫁をとりまく現実

 嫁をとりまく現実には、とても辛いものがあります。姑の中には、「息子の嫁が私の老後の面倒を見るのが当たりまえだ。」という人がいます。また、夫の兄弟姉妹の中には嫁が献身的に介護する様子を見て、「夫が相続する遺産目当てか」などと意地悪くいう人さえいます。
  このような嫁への評価が、嫁姑の確執のきっかけになることもあるでしょう。
姑が長男との同居を期待し、長男がそれに応えるために同居したとしても、相続権のない嫁が姑の面倒を見ていかなければならないのが現実です。そして、「病気見舞いに来なかった」など、ある出来事が発端となって、毛嫌いされ、最悪の場合ついには絶縁にまで至ってしまうことも起こりうるのです。これは、姑の長男との同居への期待のうらがえしとしてあるものであり、その風当たりは、嫁に対してもっともきついものとなる傾向にあります。

法律は血縁を重視

 この相談のケースは、姑による、長男とその嫁に対するある種の制裁を含んでいます。
  民法上、子の妻には相続権も遺留分もありません。夫がその親よりも先に亡くなった後に夫の親の一方が亡くなった場合、その遺産を相続するのはもう一方の親(亡くなった方の配偶者)と夫の子、子がなければ夫の兄弟姉妹となります。嫁には相続権はないのです。だからといって、姑が嫁に遺言で財産をあげるというようなことは、現実ではほとんど見聞きしない話です。わが国が長寿大国となった現在においては、介護で長い間苦労する嫁こそ、まず法律で相続権を保障し、親元を離れていった娘や同居をしない子供には遺言で財産を与えるという方策も十分に考えられるのではないでしょうか。そうなれば、多くの嫁姑問題が解決するかもしれません。相続が争族にならないための法改正が今の日本には必要だと思います。

 

(かたおか・じゅんじ)税理士。昭和二一年、奈良県生まれ。昭和四四年、大阪大学工学部精密工学科卒業後、税理士登録。昭和五六年、片岡会計事務所所長。平成一七年ジェイシス税理士法人の代表社員に就任。経営計画、事業承継、企業再生に特化した業務を展開している。また個人の歴史、業績、思い出、作品などを個人博物館としてデジタルコンテンツとして残す「万華録」を提唱している。

相続!喜怒哀楽

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