流されない。国民一人一人がその自覚を持っていたら、あの大戦だって様相は大きく変っていただろう。昭和二年生まれの城山三郎、吉村昭両氏が戦争をテーマに対談した際、二人の話はおのずと「流されていく怖さ」に収斂していた。「万歳」「万歳」と父を、兄を戦場に送り出した日本人の弱さは、流される弱さでもあったわけだ。
と、ここまではぼくの一面である硬派性が出てしまったが、読者諸兄はやはりこれまでのような軟派の文章を期待していることだろう。期待に応えたい。
元カレが彼女に「オレはここで自殺する。お前に見届けてほしい」と目の前の多摩川に入った。彼女は必死にとめたが、元カレはどんどん中へ。流されないで! 彼女は祈っていたが、そのうち元カレは向こう岸に着いてしまった。川はどこまで行っても浅かったのだ。
流されなかった元カレ。しかし彼女の気持は戻ることはなかった。とっくの昔に、ほかの男のもとへと流されていたのだった。
流されない
(毎日新聞専門編集委員)
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