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第13回 下北沢界隈

【今回のルート】マサコ→北沢八幡神社→木曜館→かつ良→LA CAMERA→POSY

 小雨降る下北沢は、冬に逆戻りしたような肌寒さだった。駅前のジャズ喫茶「マサコ」で待ち合わせ。歴史を感じさせる、煙草で黒くスモークされた店内で、昼間からジャズとお酒を楽しむ、いい大人たち。これから散歩の荒木さんは、ホットカルピスを飲んでウォームアップ。
  マサコを出て駅の北側へ。開かずの踏切として有名な小田急線の二つの踏切をはしごする。「せわしいね、この踏切は(笑)。でもこの踏切、なんか好きなんだ」
  ウッドベースをかかえたジャズマンらしい青年がいるかと思えば、プレイボーイのジャンパーを着たおじさんが野菜を運んでいる。「シモキタらしいね」。
  踏切そばの、もはや廃墟の風格(?)をもつ本多スタジオの前で、はいポーズ。
「いい風景を見ると、一緒に映りたくなる。なんてね」
  小劇場のメッカ「ザ・スズナリ」の前を通って、茶沢通りをどんどん南下する。駅前の南口通りやあずま通りは、個性的なファッションの若者たちでひしめきあっているが、ちょっと道を入ると、とたんに静かな住宅街となる。
  森厳寺から北沢八幡神社のあたりは、こんもりとした森となっていて神聖な気配。雨に濡れた新緑が美しい。
「宇野千代が、東郷青児と暮らしたのは、このあたりだよね」
  森茉莉が空想豊かに『贅沢貧乏』で描いた生活も、この界隈が舞台だ。
「地面がしっとり濡れてるのって、いいよね。雨に濡れた道って歩きたくなる」
  激しい雨なら外出も億劫だが、しとしと小雨に誘われて叙情的な散策に心弾む。
  茶沢通りを北上し、アンティーク店「木曜館」へ。棚に並んだ人形の中から荒木さんが見染めて買ったのは、昭和初期の市松人形風の女の子だった。
「かつ良」でロースとんかつを食べて腹ごしらえしてから「LA CAMERA」へ。毎月、荒木さんのポラロイド写真展を開いているギャラリーだ。アラーキーの参上に会場が沸き、ムード歌謡バンド「ペーソス」のライブが花を添える。
  再び茶沢通りを歩き、ジャズバー「POSY」へ。荒木さんがサッチモ(ルイ・アームストロング)の名を口にすると、黙ってかけてくれる奥ゆかしいママ。
「同じ道を行ったり来たりしても、天気や時間によって、印象が違ってくる。自分の気分もぜんぜん違うしね」
  いろんな顔をもつ下北沢。本日はしっとりと、センチメンタル・アルキでした。

荒木経惟(あらき・のぶよし)1940年東京生まれ。千葉大学工学部写真印刷工学科卒業。63年電通入社。64年、「さっちん」で第1回太陽賞受賞。71年、妻との新婚旅行を写した私家版『センチメンタルな旅』で写真家としてデビュー。国内外で出版した写真集・著書は300冊を越える。最新刊は、『東京愛情』(ポプラ社)、『アラーキーがゆく ベトナム編』(阪急コミュニケーションズ)、『エローマ、モノクローマ』(ワイズ出版)など。

文=豪徳寺春香、地図制作=データ・アトラス

トーキョー・アルキ 荒木経惟

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