団塊の世代がサラリーマン人生の幕を閉じると、否応なく自宅で暮らす時間が増加する。子どもたちはすでに育ったこともあって、勉強部屋を自分の書斎にしたり、妻の希望によって台所と食堂と居間を使い勝手のいいようにしたりと、自宅を夫婦の居心地よき空間に改めるべく努める。しかし、このように住まいのリフォームをする団塊夫婦であっても、庭の改良、つまり「リ・ガーデン」にまで考えが及ぶかどうか。
自宅という場所で、夫婦が潤い求めるとなれば、たとえば庭に花を咲かせたり、さらにはそこでペットを飼う動きも出てくるであろう。この動きを先取りするかのように、エクステリア(屋外装飾)メーカーは、さまざまな庭造りを提案するようになった。そのひとつにペットのための庭づくり、つまり「ペットガーデン」があった。
「・ペットガーデン・と聞いたとき、これはいけると思いましたね。そもそも私は犬好きで、これまでの生活で犬を飼うのを絶やしたことはありませんからね」
と姶良【ルビ=あいら】邦一【ルビ=くにはる】さん(昭和四二年生まれ)は言う。工務店の下請として軽く扱われるような、従来の外溝・造園の業者であることに飽き足らず、独自性が発揮できる「ガーデンデザイナー」をめざしてきた。自分の持ち味を大切にして、仕事に付加価値をつけるよう努めてきたひとである。
犬好きだったおかげで、すぐさま「ペットガーデン」という言葉に反応する。それだけでなくその庭を犬だけに特化した「ドッグガーデン」のアイデアが湧きだし、たちまちのうちに業容の転換をはかってしまったのである。ドウ・イット・ナウ(まずはやってみよう)は、姶良さんの処世訓でもあった。
富山市内の海岸の近くに有限会社「エクサ」があった。五〇〇坪の敷地内には木材の感触をいかした事務所、工房、倉庫があって、さらに「ドッグガーデン」と「ドッグラン」の二ヵ所の展示スペースが設けられている。「ドッグガーデン」が犬の庭ならば、「ドッグラン」は、犬が走る場所、つまり犬の運動場ということになる。そこは犬と人間が憩える場所であり、姶良さんの飼い犬が心地よさそうに寝転がったり、走りまわったりする姿を見ると、飼い主でない私の気持ちまでも和んでくる。
「ドッグガーデンで風に当たったり、自然が運んでくる匂いを嗅いだりして、五感を刺激されると、犬もいきいきとする。ストレスも解消され、長生きしますよ」
と姶良さんは語る。私自身、猛省をうながされたような気になる。子どものころからペットを飼った経験は何度もあるが、はたしてペットが暮らす環境にどこまで気遣ってきたことか。あくまで身勝手な人間による可愛がり方であったかと思う。
なぜ従来の庭や室内では、環境としてペットによろしくないのか。姶良さんによると、愛犬がストレスを感じる障害は大別すると三つに分けられるという。・物理的な障害(池、階段、床材の表面温度、床の滑りなど)、・自然環境障害(日照、風通し、水はけ、植物の病害虫やトゲ・溜まり水の蚊など)、・周囲の障害(散歩犬、夜間の照明、街灯、騒音、悪臭、電磁波、カラス、車のヘッドライトなど)である。これらすべてを解消するのは不可能であっても、ひとつでも取り除くように試みたのが「ドッグガーデン」であり「ドッグトラン」であった。これらの造園に手本があったのではなく、もともと愛犬家であったがゆえに独学ながら構想できたという。

まず客を呼びこむにあたって、みずからパソコンでチラシを作成し、新聞販売店に持ちこんだ。「ドッグガーデン」と「ドッグラン」の展示場を設けたので、ぜひ愛犬をつれて体験にお越しください、とりわけ「ドッグラン」では愛犬を遊ばせ、リフレッシュさせることができます、という内容であった。そもそもチラシ広告を配ったところで、歩留りは低いといわれている。しかし愛犬家たちにはネットワークがあるらしく、一人が見てお仲間を誘ったのであろう。愛犬家は犬の環境問題にも敏感に反応し、体験イベントを催した日には一〇〇人ほどが訪れた。ヒトだけでなく動物にもやさしい環境が求められている時代である。
「年中無休、ドッグラン体験でお客さま同士が親しく口をきくようになり、そこから受注につながっていきました」
現在では、こうした庭造りに乗りだそうとしている同業者の研修も引きうけている。「このリ・ガーデン事業は犬好きでなければ無理」ということだけははっきりしている。
住まいのリフォームによって人びとが蘇るように、これまでの固定的な職業観を見直す、あえていうと脱・慣習という発想が、新たな起業を呼びおこす。人びとの気持ちに潤いをもたらすかどうかが、成否の分かれ目になる。
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(かとう・ひとし) 1947年、名古屋市生まれ。72年、早稲田大学政治経済学部卒業。
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