木村―三年ほど前、大病をなさったんですよね。
室井―すい臓に腫瘍ができてしまったんです。悪性ではなかったけど、細胞検査をするぐらいだったら取ったほうが早いと言われて取りました。「すい臓を切ると痩せますよ」という医者のひと言で、よし切ろうって決めたようなものです。ただ、ちょっとイメージと違いましたね。食べても太らないようになるのかと思ったら、そうじゃなくて。お酒と脂っこいものを一緒にとると気持ちが悪くなるから、単純にたくさん食べられないってだけなんです。なんだか損した感じです。
木村―くよくよ悩んだりはしないんですか。
室井―落ち込むときはとことんまで落ち込みますが、そもそも私、落ち込むことが嫌いじゃないんです。落ち込んでるときのほうが、小説は書きやすいですよね。現実から逃げたくなるから、別の世界を作りたくなるんですよ、自分の中で。
木村―小説以外にも、テレビのコメンテーターなどで活躍してらっしゃいますが、違和感はありませんでしたか。
室井―それはぜんぜんなかったです。テレビに出ることは素直に嬉しいことだと感じています。自分の意見がはっきり言えて、なおかつお金までもらえて、信じられないぐらい幸せなことですよ。それまでは誰ひとり、私の意見を聞いてくれなかったんだから。
木村―室井さんみたいな方はテレビでも飽きられませんよ。小説、エッセイ、テレビと、これからますます活躍しそうですね。
室井―そうですか。ありがとうございます。でも三日ぐらい休みが続くと不安になって、貯金通帳ばっかり見ちゃうんです。増えるわけじゃないのに。この先どうなるかなんて、誰もわからないですからね。最悪の場合に備えて スナック資金 を貯めています。売れなくなったらスナックのママになって、馴染みのお客さんだけで食べていこうかなって。
木村―この雑誌の読者層は五〇代、六〇代の方が多いんですけど、その年代の方たちが、室井さんのように輝いていけるにはどうしたらいいんでしょうか。

室井―うーん、その年代の方が今から急に輝こうと思っても、ダメかもしれない。普通に考えて、十〇代、二〇代で努力しなかった人は三〇代で突然輝くことはないと思うし、三〇代四〇代にさぼってきた人が、五〇代でパッと輝くわけがないと思うんです。いきなり新しい自分を作ろうとしても無理なんですよ。
木村―確かにそうですね。
室井―それだったらむしろ、短所には目をつぶり、今まで自分がつちかってきた長所の強化を図ったほうが輝くと思いますね。人に言われて信念を曲げたり、急に路線変更したりするのが一番中途半端で、ダメなんだと思います。誰にどう思われても、自分はこうだというものを貫き通した人の勝ちだし、そういう人が最終的には輝きを放つんだと思います。
木村―なるほど、人間は突如として輝くわけではないと。非常にまっすぐで素晴らしいアドバイスだと思います。ありがとうございました。
後記
二年ほど前、伊丹へ向うべく羽田の搭乗口に並んでいると、後ろから私の背中をツンツンと突く人がいた。「誰だ! 武士の背中をつつくのは!」怪訝な顔をしてふり返ると、室井さんがニーッ。不意打ちに思わず心を掴まれてしまった。以来の室井ファンである。今もテレビで彼女を見ると、ついその発言に注目してしまう。したり顔のコメンテーターよりも、遥かに芯をついてくる。「ママの神様」を読んでまたファン度が増えた。今度、テレビで見かけたら言おう。「よっ室井、がんばれーっ!」って。(木村)
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