長い研究の結果、亭主には二種類しかないことが判明した。それは、すでに尻に敷かれている亭主と、やがて、尻に敷かれる亭主である。そのどちらも一〇〇%尻に敷かれる運命であるから、「いかに上手に妻の尻に敷かれるか」を学ぶ事が家庭内生存率を高める唯一の方法と警鐘を鳴らしている。もし、貴殿が、「風呂、飯、寝る」の旧亭主関白であれば、まぎれもなく妻からの三行半候補になると警告しておこう。と、断言するのは、全亭協会長である私の悲しい体験によるものだ。今でも一九九九年の夏がフラッシュバックする。九州男児の端くれである天野は、典型的な旧亭主関白であった。男は黙って発泡酒、とばかりに、愛妻の話には、「忙しい、聞きたくないっ」は当たり前。男子厨房に入るべからずを先祖代々守ってきたものである。ところが当時、知人が立て続けに四人程、妻からの突然の三行半を突きつけられてしまう大事件が勃発したのだ。しかも口を揃えて「理由がわからない」とグチをこぼしていた。そのことを夕食の時、「情けないねぇ、こんなことが立て続けに起こってるよ」と愛妻に話すと、静かな沈黙の後、真剣な目で、「次はあなたの番よ」と言われたのだ。トホホ以上ショック未満であった。その言葉よりも、今まで見たこともなかった冷たい表情の他人顔に、である。自室に避難し、静かに考えた。元来、小心者の私は、強い立派な亭主を演じてきただけで、愛妻のいない生活を想像すると答えはすぐに出た。翌日、私は家族に向かって宣言した。「立派なオヤジになれないから、今からは、話のわかる、心の通じる亭主を目指す」まさに、これこそが全亭協設立の瞬間であり、後に語り継がれる、〃新!亭主関白宣言 である。語り継がれるという表現は大袈裟だった。ことあるごとに、「あの時の宣言は嘘だったのネ」と罵詈雑言を浴びせられるセリフになっただけ。九州男児はすぐ見栄を張りたがる、って私のことか。あれ以来、ゴミの選別、風呂掃除、食事の後片づけと、仕事は増える一方だが、後悔はしていない。何しろ、愛妻の眉間にあった二本の線が薄くなり、我が家に会話と笑顔が戻ってきたのだ。そのことを居酒屋で仲間に話すと、「実は僕も、家庭がうまくいってないんだよ」が目白押しで、「家庭内のイザコザを一夜にして解決する心とワザ」の奥義を、手帳にメモる者が出る始末であった。私は確信した。日本の未来を明るくするには、世の亭主達が妻から笑顔を引き出す「亭主力」を身につけなければならないと。かくして、十一名で発足した全国亭主関白協会は、現在五七〇〇名を越える団体になったのだ。とは言っても何の努力もしていない。マスコミから取り上げて頂くたびに知らず知らずに増えただけが正直なところ。たとえ会員になっても何の制約も、特典もなく、自分の意志で「愛の三原則」や「非勝三原則」をそれなりに守っていくだけでいいのだ。〃妻をいかに愛するか これが新!亭主関白道の永遠の課題であり、命題だ。なぜならば夫婦生活は、過酷な鉄人レースのようなもので、荒波をようやく泳ぎ切ったかと思えば息つく暇もなく、自転車をこぎ、うねりくねった山道を上り下り、精も根も尽き果てたところから、マラソンである。優勝するより価値のある完走を目指すことが大事だ。それに、二人で走る心強さは何事にも代え難いではないか。愛妻ほどかわいい生き物がこの世に存在するだろうか…、機嫌のいい時だけは(笑)。
妻はかわいい生き物である。
機嫌の良い時は。
(あまの・しゅういち)1952年、福岡県久留米市生まれ。福岡県内で70万部を発行するフリーマガジン「リセット」、タウン誌「福岡モン」の編集長。「亭主が変われば、家庭が変わる。日本も変わる」をスローガンにした「全国亭主関白協会(全亭協)」会長。主な著書に『亭主力―夫婦円満、家庭円満の新!方程式』(角川SSC新書)、『妻の顔は通知表――新! 亭主関白宣言。』(講談社)がある。
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