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マキノ雅彦(津川雅彦)

映画と娘が元気の素

マキノ雅彦

映画監督として、役者として、
ますます円熟の域に向かう津川雅彦さん。
しかしその素顔から見えたのは
愛する映画、愛する家族への一途な想い。
今どきのストリートファッションを
サラリと着こなす
永遠の映画青年がそこにいた。

木村―今回『次郎長三国志』を拝見させていただき、実は違和感を感じたんです。今まで映画で描かれてきた次郎長一家というと、ハンサムでいかにも強そうな連中ばかりだったじゃないですか。ところがこの作品はずいぶん違いますよね。

マキノ―従来の時代劇というと、役者はみんな眉毛をスッと書いて、華麗な立ち回りをする、主役は美しい二枚目と相場が決まっていました。だから次郎長にしても今まではみんなハンサム過ぎたんです。ところが、男は観客も含めて嫉妬深い、二枚目は好かれない。むしろ反感を買っちゃうんですね。特に最近のお茶の間のブラウン管では客を癒すブサイクが流行っている時代ですからね。僕の描く次郎長一家の子分達も、ブ男で女にモテない連中の掃き溜めにした方がリアリティも出るんです。

木村―二枚目は嫉妬を買うというのはご自身の経験からですか?

マキノ―そうですね。僕は本当に男に好かれない男でした。脚本家、演出家、プロデューサー、勿論、観客からもね。街で男とすれ違って気持ちのいい反応なんてひとつもなかった。不倫スキャンダルで全く売れなくなったのをきっかけに、悪役やイヤらしい役を始めたら、案の定みんな喜んでくれました。その経験からも、男に喜んでもらえる次郎長一家を作るなら、今流行りの芸達者なブサイク達で作れば前作を凌げる筈だとね。

木村―ここはあなたの見せ場だよ、というのが全員に用意されていて、役者さんがとても気持ち良さそうに演技をしているのが伝わってきますよね。

マキノ―群像劇というのは、全員のキャラクターがくまなく生かされて、初めて成り立つものです。僕は役者出身の監督なので、役者が芝居をし易い環境作りをして、一番いい芝居をフイルムに映さないと。僕が監督をする意味がない。たとえばクロード・ルルーシュのようなカメラマン出身の監督は、やっぱり素晴らしいカメラワークで、自分の長所をよく活かしてました。
 役者をやっていて感じていたことなんですが、たとえば地球儀を作るとする。何か丸いものを作っているが、何だろうと、いつまで経ってもよくわからない。ところが一番最後に地図を一枚貼るだけで、ああ地球儀だったんだと。最後の一枚が役者の仕事です。物語を伝えるのは役者を通じて以外にやりようがない。役者は映画を創る上で、それこそたった一枚の参加だけど、最重要なんです。映画作りの過程の中で、役者が担う時間は限られたものですが、この映画は何なのかを客に伝える一番大切なパートです。ですから役者がいい芝居をする映画が一番面白い。今回キャスティングした役者さんたちは、僕が日頃から尊敬している方々ばかりなので、必ず面白い映画にしてくれると信じてました。

木村―日頃から、この役者さんはいいなと目を配っていらっしゃるんですか?

マキノ―好きな役者さんは、監督するしないに関係なく、仲間として大事にしたい思いがありましたから。日頃から一緒に飯を食べに行ったり、花火を観に行ったりと、みんなでつるむのが楽しい。ときには情報交換をしたり、あの演技良かったねと褒めてあげたり。役者って孤独な職業ですから、商売敵に認めらると自信がつくんですね。  昔、売れなくて暇だった頃、道でばったり勝新太郎さんに会って。そのまま食事に連れてってもらったんですが、食事中、「あっそうだ」って新聞の切り抜きを取り出して渡してくれた。それは当時僕が久しぶりに主役をやった連ドラを高く評価する内容の記事で、勝さんは「これを読んでな、俺と同じ意見だったから嬉しくてさ。渡してやろうと思って持ってたんだ」って。たまたま道で偶然出会ったのに、新聞の切り抜きを持っててくれてた。それだけ僕の芝居を評価してくれ、気にかけてくれてたのかと思うと、本当に嬉しかった。だから僕も勝さんにやっていただいた万分の一でもしてあげられたらと思って、知人の記事を見つけると、切り抜きを送ってます。

木村―『次郎長三国志』でも、単にアクションや男の戦いというよりも、仲間との友情や、親子・夫婦の愛情といったものがふんだんに描かれていますよね。

マキノ―なぜ次郎長一家の愛情が美しいかというと、親不幸の限りを尽くし、家族に見放され、社会に出てもうまくいかず、寝る場所もなく食うに困って叩いた門がたまたま次郎長のとこだった。世に捨てられ、すってんてんで何にも持っていない連中同士だから、無垢な結びつきが可能なんですね。師匠マキノ雅弘が描いた任侠映画は、そういった半端物だからこそ持てる純粋な愛情を描いたんです。一時期、流行った『唐獅子ボタン』などのヤクザものはみんなそうでした。ところが最近は、無情に仲間たちを殺していくようなバイオレンスものが中心になってしまって…。それだけじゃ飽きられちゃいますよ。
 落語一家も含めて僕が群像ものが好きなのは、そういった底辺を共に生きた人達の持つ純粋さに惹かれるからです。裕福になったが故にギクシャクしてしまった家族達と違い、貧しいからこそ強く明るく生きられる姿を見せたいんです。

木村政雄編集長 Special Interview

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