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パソコンの穴に隠れる鼠

 民営化のメリットとは、金儲けの力によって合理化を実行させるのが狙いだろうが、ここではその方法に欠陥がある。アメリカなどでは建築会社がこういう事件を予測して損害保険に入る。そうすると保険会社の方が損失を防ぐために、建築構造を徹底的にチェックする。そうなってこそ、民営化の意味がある。金儲けの力が能力を発揮する。
 いまの世の中は安売り競争が激化している。だから耐震構造の書類を改竄【かいざん】したのは姉歯建築士に違いないが、そこには建設企業からの安く安くというプレッシャーが常にあっただろうと想像できる。だから建築士が悪くて、検査機関が悪いのははっきりしているが、安く建てようとばかりする建設企業も悪い。それを安さに引かれてそのまま買った方の無知も問題となり、結局は安物造りの社会の流れの中心に近づいてしまったものの悲劇ということになってしまう。
 とはいえはっきりしているのは、この建築士の書類の改竄である。改竄の竄【ざん】の字が凄くて、これは隠れる、隠す、逃れる、といった意味がモトらしい。よく見たら竄の字は穴に鼠である。穴の中に鼠がちょろちょろと逃げ込むのだろう。あるいは穴の中に鼠が獲物を隠す。鼠というとあの尖った歯が頭に浮かんで、それがどうしても姉歯一級建築士に直結してしまって、どうもいけない。
 でも今回の事件報道を見ていて、この改竄した建築士のいっこうに悪びれない顔が印象的だった。おそらく改竄というのが日常の行為だったからだと思う。その報道を聞いたわれわれも、その業界の全体的にずさんななれあいの断面図には唖然としながらも、一方で、やっぱりそうか、といううんざりした感情にも襲わている。そのくらいのことはあるだろうという世の中の範囲内に、この事件が発覚したという印象ではないのか。
 いまのパソコン社会というかネット社会というのは、そもそもが改竄社会である。パソコンは改竄を得意とする道具なのだ。雑にいうとパクリの道具であり、その道具感覚からパクリの世界が広がっている。今年のはじめの新札切り換えで、どっとニセ札が出た。パソコンというのがそもそも情報のコピー機なんだから、出るべくして出たニセ札だと思った。模倣と同時に改竄機能をもっているパソコン社会だから、ある意味では姉歯一級建築士の事件の一翼を、微量ながらみんな担ってしまっていることにもなるのではないか。

赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)1937年、横浜生まれ。『父が消えた』で芥川賞受賞。『ふしぎなお金』『目玉の学校』など、著者ならではの、まともに考えれば考えるほど不可思議な人間社会の謎を探究する目からウロコの名著多数。

赤瀬川源平 世相真面目にななめ読み

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