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松岡佑子 翻訳者

世界的ベストセラー『ハリー・ポッター』との出会い。

――『ハリー・ポッター』は、全世界で3億部といわれていますが、この本によって、世の中の何かが変わったと思いますか?
写真上=第一巻『ハリー・ポッターと賢者の石』の翻訳用の原書。つけられた付箋は、歴戦の証?写真下=原書の見返しに書かれた、著者J・K・ローリングの言葉。《I have never seen a book in this condition - I love it !!》。翻訳者にとっては最大の賛辞である。 「『ハリー・ポッター』は確実に子供の中に読者層を広げましたね。本を読まなかった子供がこの本だけは読んで、おかげで読書が好きになった、ということが多いですね。そして今度は子供たちが親に薦め、今の若いお父さんはそう言われるとすぐに読みますので、家族で読むという社会現象化して定着したと思います」。
 児童書は1万部売れたらベストセラーといわれる時代に、初版は3万部だった。「10万部売れたらうなぎをご馳走してくれるという人がいたくらいですから(笑)、売れることを予想していたわけじゃないんです。ただ、自分の感じた面白さを読者に伝えることが私の任務だから、それには、翻訳に一大責任があると思ってプロジェクトチームを組み、徹底的に読みやすくて面白い、そして正しい日本語にしようと頑張りました。素人集団が思いのたけをこめて作ったんです」。こうした本作りの姿勢が小さな渦となって、やがて多くの人々が飛びこんできてくれた。

―― そういう皆さんのサポートは、経済面も含めてですか?
 「経済的にはね、お金持ちは一人もいませんでしたから(笑)、私が、主人の生命保険をはたいたんです。底をついたら、また通訳で稼いで次を出そうという状態でした。ただ、皆が言うには、私の情熱がすごかったのだそうです。だから、この本には何かある! 何かあるから飛び込む! ということだったようです(笑)。イラストや編集の人も、売れなかったらお金は要らないという、涙ぐましい友情に支えられて、幸いこの仕事を続けられました。最初は何もない状況で始めたのは確かです。でも、何があろうとも! という捨て身の飛び込みというのは、チャレンジ精神じゃないんでしょうか(笑)。そういえば、翻訳が国語の入試問題にもなったんですよ。翻訳ですのに(笑)。日本語として評価もされたんだと思うと、嬉しかったですね。最終の第七巻まで、初心を忘れず、おなじ姿勢を保っていくことが責任だと思っています。ですから、ロングセラーになってほしいです」。

―― ベストセラーより、ロングセラーですね?
 「そうです。主人のやってきた出版社に『ハリー・ポッター』という本を残すことによって、歴史に一つの小さな石を残したいということでしょうか」。

 いよいよ第六巻『ハリー・ポッターと謎のプリンス』が刊行(5月17日)される。英語版が出版されるまで、翻訳者にも、内容は一切明かされないうえ、巻を追うごとに長くなる物語を、原作が出版されてから一年以内に翻訳出版するのは、至難の業である。まさに魔女的仕業なのである!?
 また、ご主人の悲願だったALS国際会議の日本開催が、ついに実現する。遺志を継いで開催にこぎつけた松岡さんは、この会議で通訳も束ねる。真摯な努力こそ「成し遂げる」ための原動力なのだ。

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