というので民主党はさんざんだった。「ノーアウト満塁は点が入らない」という格言を証明してしまった。しかし一方で、「野球はツーアウトから」という格言もある。これはノーアウト満塁の裏返しだろう。ツーアウト、あとは一人バッターを打ち取って次の攻撃だ、という守る側の甘さが、つい次のバッターを生かしてしまって、まあ一人はしょうがないと思っていると、次も内野ゴロをミスしてランナーが溜る、というのでだんだん浮足立ってくる。攻める側も、ツーアウトだと思うと野心もなくなり、無心に打ったりするので、意外にどんどん実力が出て、これは面白いと実力以上のものも出て、気がついたらとうとう逆転、ということが案外多い。やはり経験から生れた格言は偉い。
でもいまの民主党にそれがあるだろうか。ツーアウトになって、野心もなくなり、開き直って無心に打って出るなんてことがあるとは、とても思えない。いや、そうあって欲しいと思うのだけど、無いものねだりをしても無理だ。
ところでここまでの話の経過の中で、自民党の小泉政権の側が何かしたかというと、何もしていない。さあどうしよう、と思っている間に、相手が勝手にコケてしまった。相撲でよくこういうことがある。睨み合って、さあ立ち合い、ちょっと出遅れたかな、と思いつつ立ったら、立った相手がつまずいてもう土俵に転がっている。
このシーンを見て、みんな小泉首相のツキを感じたのではないか。その前の皇室典範の問題でもそうだったし、さらにその前にもいろいろ、さあこれは大変な事態だと思ったら、思わぬ風の吹き回しでいつの間にか政局が逆転している。でもツキは科学的に説明できない、論理世界では相手にできないことだから、これはただの偶然だと、考える対象から外していると思う。ここが世の中の面白い問題である。
「運も実力のうち」という格言がある。これも野球世界でよく使われている。現実というのは無数の勝負の連続している世界だ。その中で論理的に説明できるのはわずかな一部で、あとの大半はツキや運がすべてにからんで渦巻いている。論理依存の強い人は、どうしても謝罪するはめになってしまったりすると、いえなくもない。
運も実力のうちなのか?
赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)1937年、横浜生まれ。『父が消えた』で芥川賞受賞。『ふしぎなお金』『目玉の学校』など、著者ならではの、まともに考えれば考えるほど不可思議な人間社会の謎を探究する目からウロコの名著多数。
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