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箱根湯本

 テレビのチャンネルをひねる(今はリモコンだからひねるとはいわないか)と毎日のように温泉取材の番組をやっている。本屋に行けば温泉関連の本や雑誌が驚くほど各種並んでいて温泉大ブームの様相を呈しているように映る。
 マスメディアの煽りがどの程度功を奏しているのか定かではないが、温泉地には思ったほど人出が少ない。現にかつての新婚旅行のメッカと呼ばれていたような有名温泉地は閑古鳥が鳴いており、その対策に街ぐるみ苦慮しているところが多いと聞く。
 にもかかわらず、テレビや雑誌では温泉番組や記事は相変わらずにぎわっている。テレビだって視聴率が高いからやっており、雑誌だって温泉を特集すれば売れるからやっているに違いない。日本人は今も昔も温泉が好きだという。「どこに行きたいか」というアンケートをとれば、「温泉」という人がきっと上位を占めるに違いない。だけど流布されている情報と現実にはギャップがあるような気がしないでもない。もしかしたら、特定の温泉地に人が集中しており、でない所にはあまり行かないという一極集中型現象が起きているのかもしれない。
 だけどテレビの温泉取材の番組を見てごらんなさい。どこの温泉地も旅館も人出が少なく何やら淋しい映像しか伝わってこないではないですか。するとあれが現状かもしれない。だとすると、一種のペーパードライバーみたいに運転しないけれど地図上で運転した気分になって旅行を楽しんでいるという人種が、じつは温泉マニアの中にもいて、その手の人種がテレビの視聴率を上げ、雑誌の売り上げに貢献しているということも考えられなくはない。
 まあ、われわれがこの雑誌で旅する温泉地は一応王道といわれる有名温泉を選んでいるので、街や旅館には宿泊客が一人もいないということはない。温泉街のお土産物屋を覗くと、にぎわっているところもあるが、わんさと押しかけているというような光景は見当たらない。休日には多いのかもしれないが、少なくとも平日はそれほど混んでいるとは思えない。
 温泉に行く以上多少は無理をしてでもいい旅館に泊まりたいのが人情だろうが、宿泊料は決して安くはない。といってわびしい旅館に泊まっては、豊かな温泉気分は味わえない。そう考えると、しょっちゅう行けるものではない。3、4人の年輩のご婦人のグループや団体客の姿はよく見掛けるが、殿方のグループや男性の団体客はあんまりお目にかからない。たまに定年退職したと思われる老夫婦を見掛けることはあるが、もしかしたら2007年問題は一大温泉産業によって一挙に解決できるのでは、と手ぐすね引いて待っている人たちもいるかもしれない。

横尾忠則の温泉主義

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