新宿から日光・鬼怒川温泉間に特別列車の直通運転が開始された6日後に、さっそく試乗とばかり、日光の魅力再発見の旅に出たのであります。
3月下旬だというのに北陸は吹雪に荒れ、まだ春遠しというところだが、われわれが向かおうとしている日光・鬼怒川の天候は雨という天気予報の情報を裏切って、現地に着いた頃は頭上に青空が広がっていた。
最初に訪れた日光東照宮は、平日だというのにさすが世界遺産の威力で大勢の観光客を呼び寄せている。ぼくがここを訪れるのは初めてではない。だけど困ったことに、参道から眺める景色に見覚えがない。記憶の空白部分に立っている自分がちょっと情けなくもある。一ノ鳥居をくぐった境内の左手にそびえる五重塔に、ぼくは思わず感嘆の声を発した。「それにしても五重塔なんてあったかなあ?」と首をかしげていたら、Mさんは「いつも新鮮でいいですね」とぼくの毎度の健忘症を笑った。近頃、言葉はぼくの中からどんどん消えていくが、とうとう眼の記憶まで冒され始めたようだ。それはともかく武士の鎧【よろい】を張りつけたような飾り過剰なキッチュな美力に、ぼくはしばし呆ぼうぜん然と眺めていた。
五重塔の眼が痛くなるような極彩色に対して、国宝陽明門はえらいくすんで汚れているように思えた。あんまり多くの人の視線にさらされるものだから、手垢【てあか】ならぬ眼垢【めあか】がついてしまったのだろうか。今回初めて気がついたけれど、陽明門の内側の柱の一本だけが他の柱の模様をわざと逆さにして立てていることを知った。建築ミスなのか、それとも遊びなのかと疑ったが、本当の理由は魔除けのためということがわかった。権力の象徴のような威圧的な建造物に、よくもまあ呪術のためとはいえ、笑ってしまうようなこんなトリックが仕掛けられていることに、ぼくは徳川家光はエライと思った。
人工的な美の世界から一転して自然の芸術作品、華厳の滝に向かった。滝壺まで100メートルもエレベーターで下りることに驚いていると、またもやMさんが「この前一緒に来た時も同じことを言っていましたよ」とまたまたぼくの忘れんぼに対して「いつも新鮮でいいですよね」と言いたそうに笑った。雪どけ水の季節に比べると水量はもうひとつだったが、この滝の魅力はなんといっても97メートルの水の落下と、洞窟のようなえぐられた空洞が計算されたような自然の建築物のように見えることだ。華厳の滝はぼくの滝シリーズの作品にも頻繁に登場しているので特別の親近感がある。
鬼怒川温泉
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