大滝を見たあと、熊野那智山郵便局で日付入り風景スタンプを捺印する。恒例になったこの行パーフオーマンス為を記録するために、Mさんはぼくを郵便局の前に立たせて毎回写真を撮る。スタンプとぜんざいとソフトクリームは、この温泉巡りの三種の神器みたいになってしまった。
大滝から少し離れたところに那智山青岸渡寺と熊野那智大社がある。半強制的に梅入りソフトクリームを買ってMさんに勧める。「またー?」って顔をするMさん。大社の拝殿にお参りしようとした時、以前にもお会いしたことのある禰宜(ねぎ)の伊藤さんに声を掛けられ、思いもよらず、ありがたいことに、お祓いを受けることになった。
「カケマクモカシコキイザナギノオオカミ……」と神職の唱えられる祝詞(のりと)に身が清められる思いがする。巫女(みこ)さんの美しい優雅な舞いにしばし目を奪われたあと、鎮魂(たましずめ)をしていただき、玉串の儀を終えたあと拝殿の背後にある社殿に案内された。この前に来た時は確か工事中であったと思うが、今日その修復された本殿の美しい輝きを目にして、いにしえの元の姿を味わうことができた。垂れ桜の枝も優美に成長して地面の玉砂利すれすれまで伸びていた。大社には三本足の八咫烏(やたがらす)の彫像もある。なんでも神武天皇が大和国に入る際に道案内をしたのが、この三本足のカラスだったといわれている。日本のサッカーチームのシンボルがこの八咫烏であることはよく知られている。
この日はお祭りで、宮司さんもいらっしゃるということで宮司さんからいろいろ話を聞くことができた。紀伊山地の霊場と参詣道が世界遺産に登録されるまでのプロセスと、自然崇拝が起源とされる現世浄土を求めるこの聖地の中心にある那智の滝の存在価値、そして自然に対する「感謝の心」が大事だというような話であったと思う。宮司さんは話好きとみえて、大滝のように立板に水を流すように早口で話されるので、その全部を聞き逃さないようにするには、かなりの精神の集中力が必要であった。
宮司さんと別れて外に出ると、さっきまで大声を上げていたアジア系の観光客も姿を消し、辺りにはまったく人影がなく、本来の静寂に戻っていて、われわれのタクシーだけが駐車場にポツッと一台取り残されていた。すでに那智山全域に霧がかかり、白く光る遠望の那智の滝だけが柱のように立っていた。
南紀勝浦温泉
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