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外人社長の頭の下げ方

 むかし『死刑台のエレベーター』という映画があった。懐かしい。ぼくが渋谷でサンドイッチマンのアルバイトをしているころだ。上京して一年目。監督はたしかルイ・マル。モノクロームの暗い雰囲気のフランス映画で、冷たくひやりとするような空気が妙に新しそうで、これは見なければ、と話していた。
 路上の仕事仲間の先輩格にやはり映画好きのワダさんがいて、プラカードを手に路上ですれ違うたびに話題にしていた。いちばんの話題は、映画音楽にはじめてモダンジャズが使われているということで、大丈夫かな、と心配していた。
 それまで映画音楽といえばクラシックの交響曲みたいなもので、各シーンを移り流れるドラマに合わせて音が作られ、それではじめて映画の一体感が生れる、と思われていた。
 でもモダンジャズというのは一様なリズムではなくて、勝手にリズムが変って音が跳ねる。それを画面の動きとうまく合わせられるのか。
 それが心配だった。ぼくらが心配してもしょうがないけど、映画が好きだから、見る前にどうしても想像する。その想像の中ではどうにもうまくいかずに、心配になるのだ。
 まずその先輩格のワダさんが見に行った。封切り館だから高いが、この場合はもう決意する、見てきた感想は、いいという。モダンジャズも不思議に合っているという。でも見ないうちはどう合っているのかわからず、こちらも決意して見に行った。案の定、何かひやりとする冷蔵庫みたいな映画で、格好よかった。ストーリーはよくわからなかったけど、何かそのわからない感じと、画面と直接は関係なく響くモダンジャズとが、妙に空気を深くする。違和感はない。いや音がコマ割りに関係ないから違和することはたしかだけど、そのズレみたいなものの中に何かが生れて、なるほど、こういうことになるのかと感心した。いまとなってはどんな音楽でも映像に合うといえば合うもので、いちばん象徴的なのは武満徹の映画音楽だ。ギン、ゴンガン……、というような脈絡のない音の連なりが、画面の緊張を不思議に高めたりする。後に自分でビデオ映画を作ってみたとき、既製の音楽をいろいろ当ててみると、どんなものでも映像にフィットするので面白くなった。

赤瀬川源平 世相真面目にななめ読み

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