ファイブエルへの登場は二度目の瀬戸内寂聴さん
前回は6月号の「横尾忠則の温泉主義」の特別ゲスト
そのあまりの愉しそうな様子に、もっとお話がうかがいたくなった
今回は恋愛の達人、瀬戸内さんに「恋のはなし」をお聞きするつもりが話題は「戒律」「出家」「来世」……へと、愉しく広がっていった
瀬戸内寂聴 作者・僧侶
色気のない男はつまらない
(せとうち じゃくちょう)1922年、徳島市の神仏具商瀬戸内家に生まれる。徳島県立高等女学校、東京女子大学国語専攻部卒業。大学在学中に結婚したが、後に離婚し、上京して小説家を目指す。1956年、瀬戸内晴美名で処女作『女子大生・曲愛玲』、新潮同人雑誌賞を受賞。63年、『夏の終り』で女流文学賞受賞。92年、『花に問え』で谷崎潤一郎賞受賞。また01年には 『場所』で野間文芸賞を受賞するなど受賞も多数。「全集」(全20巻、新潮社)のほか、「源氏物語」の現代語訳全10巻(講談社)など著書は300冊以上。73年、51歳で出家し、改名寂聴となり、京都に寂庵を結ぶ。87年、天台寺の住職に就任し、昨年辞任。現在も執筆、法話、など積極的に幅広く活動している。「徳島県立文学書道館」館長、「宇治市源氏物語ミュージアム」名誉館長。文化功労者。
木村― ずいぶんお元気ですねえ。さっき後ろ姿を拝見して、とっても素敵だなあと思ったんです。どうしたらそんなに元気でいられるんでしょうかね。
瀬戸内― 「あれが欲しい」「あいつが嫌い」とか「悔しい」とか、そういうわだかまりを持つと、それがいろんな塊になって気の流れを邪魔するんです。そうしたら病気になりますね。まず気持ちがからっとしてると、あんまり病気にならない。
木村― 僕は瀬戸内さんのご本を読ませていただいて、とっても良かったなあと思うのは、戒律というのはお釈迦様が人間にできないことばっかり言っていらっしゃる、ということでした。
瀬戸内― それは私がだめ人間で、本当に戒律なんか守れないんですね。小説家なら悪いことしてもいいんです。どうせ人の道を外れた人間が小説を書いているんですから。
だけど、出家したら戒律がありまして、それは守らなきゃいけない。「嘘ついちゃいけない」とか、「人の悪口言っちゃいけない」とか、いろんなことがあるでしょう。そんなんできませんよね。だって、「嘘つくな」って言ったって、私なんか小説を書かなきゃ食べられませんからね。小説を書くということは嘘をいかに本当らしく書くかということなんですね。だから毎日、毎日、嘘ついてますよ。それから「人の悪口言うな」なんていったって、人の悪口言いながらご飯食べたらおいしいですよぉー。
だからまあね、戒律って、普通人間には守れないことばっかりなんですよね。守れないと、自分で「本当にだめなんだな」と自覚します。自覚したら、だめな人を許せますね。「あの人は嘘つきだ」と思っても、「自分だってそうだ」と思うと、許す気持ちになるでしょう。
木村― なるほどね。「人生相談」をよくなさっていますね。拝見していると、とってもお優しいですね。人間の業みたいなものを肯定なさっているじゃないですか。
瀬戸内― それはだって仕方がない。自分がしようがない人間だと思ってるからね。だって、生まれつきスケベな人に「慎め」って言ったって、もう治らないですよ。お酒好きな人に「からだに悪いからやめなさい」なんて言ったって、聞かない人がいますよねえ。でも、いいじゃないですか。お酒やたばこをやりすぎて命を5年縮めたって、楽しいほうがいいじゃないですか。
木村― いやあ、そうおっしゃっていただいたら何か本当に救われた気がします。
瀬戸内さんは51歳で出家なさいましたね。どうして出家を……。
瀬戸内― みなさんそれを聞くんですよ。あんまり聞かれるから、「昔の人はどうだったかな」と思って、在家から出家した人、西行さんや一遍さん、良寛さんもね、そういう人を調べてみたんです。そうすると結局、「わからない」ということがわかったの。だから「ああ、それでいいんだ」と思ってね。
ただ、あんまり聞かれるんで、ふっと思いついたの。身上相談をやっていると、女が迷うのは、48歳から52、3歳までがいちばん多いんですよ。なんでかなと思ったら、閉経期の前なんですね。それで私が出家したのが51歳だったから、「ヒステリーのせいじゃないのかな」というと、みんな納得するの。ただ自分で出家しようと思ったって、頭丸めたって、仏がその人の出家を認めないと必ず還俗してますよ。そんなに簡単じゃないのね。
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