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誰かへ宛てた手紙。第4回目の手紙「母を想って」をお送りします。

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母を想って

お母さんへ

  当たり前のように帰る家があり、そこに自分の帰りを待っていてくれる人がいるということは、どんなに幸せなことでしょう。「お母さん、ただいま」「はい、おかえりなさい」という、ごく当たり前のやり取りに年々ありがたみが増す今日この頃です。そういった常日頃抱いている伝えきれないほどの感謝の気持ちを、普段は言うきっかけもなかなかないので、この手紙に託すことにします。


 初めてお母さんの元を離れた一六歳の頃から早いものでもう一〇年が経とうとしています。この間、進学や仕事で東京から海外までいろんな場所を転々としてきたわけですが、今回こうして家に戻ってきて、大きな安心感とほんの少しの違和感を覚えています。私は自然に囲まれ、人里離れた環境で生まれ育ってきたので、昔から外の世界に憧れて、その気持ちに従って外へ外へと出ようとしてきました。でも、少し立ち止まって自分の周囲をよく見渡すことも大事だと思うようになったことが、今回家に帰ってきた理由であり、日本語教師という道を選んだ根本的な動機でもあります。私は長女のくせに、これまで自分勝手に道を選択してきました。でも、お母さんはそれを否定したことは一度もありませんでしたね。そんなお母さんの存在が、いつも励みになっていました。今、こうして新たなスタートを切ろうとしている私を、また温かく見守ってくれたら嬉しいです。

 ところで、私はこの「千遇(ちはる)」という名前をとても気に入っています。真の由来はさておき、私は他人から由来を尋ねられる度に「千載一遇」と簡潔に答えています。今日の私がここに存在するのは、まさに千載一遇という言葉に見合う貴重な出会いに数多く恵まれてきたからです。どこにいても、何をしていても、私は常に周囲の人たちに支えられて生きてきました。それはこの名前のおかげなんじゃないかとさえ思うのです。これからもこの名前を一生背負っていく身として、その価値に値する人間でありたいと思います。

 私がこの世に生を受けたとき、お母さんは二七歳だったと聞きました。今となっては、私のほうがもうすぐ二七回目の誕生日を迎えようとしています。ということは、お父さんが亡くなってからもう二〇年も経つのですね。お父さんのことについては、もうあまり話題に上ることもありませんが、今でも当時の光景がふと蘇ることがあります。救急車、お見舞い、お葬式など、不思議なほどに鮮明です。きっと一生忘れることはないのでしょう。そして、お母さんがお父さんの死を嘆く姿を見た記憶もその辺りで止まっています。私はお父さんの死で、命には限りがあるということを知りました。だからこそ、子供に捧げてきたお母さんの人生の大半、あとの残りは自分のためにとっておいてほしいと思うのです。お母さんが過去に涙を幾つも飲み込んできたからこそ、今の私たちは毎日笑って過ごしていられます。お母さんが私たち子供の前でいつも「お母さん」でいてくれたこと、私は心から感謝しています。「ありがとう」という言葉では伝えきれません。

 私たち兄弟三人もみんな無事に成人を迎えました。私たち三人はまだまだ半人前で頼りないし、これからも迷惑をかけることがあるかもしれません。でも、今までそうだったように、これからもみんなで支え合い、ひとりひとりが笑っていられる家族でありたいなと思います。

岡田千遇


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