誰かへ宛てた手紙。今回は親から娘に宛てた手紙をお送りします。 貴方も誰かへ宛てた手紙を投稿してみませんか? |
「シャーシャーシャーシャー」アブラゼミの声で朝早く目が覚める季節になると、お前の子供時代のことを思い出します。虫が大好きなお前は、夏になると家の近くの公園に蝉捕りに出かけるのが日課でした。帽子をかぶり、たもとかごを持って得意満面で写真に写っています。そんなお前も成長するにつれて、どんどん離れていき、今は東京で働いているんだね。
忙しいときは忘れているのですが、ふとお前のことが気になるときがあります。急に暑くなったり寒くなったりすると、風邪を引かなければいいがと。幼い頃は、夜中に布団をかけてやったり、扇風機の風がまともに当たらないようにしてやったり。そういえば、寝冷えしないように金太郎の腹掛けをして寝ていました。今そんな世話を焼いたら嫌がられるだろうな。ひょっとしたら、血圧が高いと言っているのを聞いて、今ではお前のほうがお父さんのことを心配しているかもしれない。もう子供から心配される立場なのかな。でも、いつまでたっても子供は子供、心配の種なんです。
お父さんは、今何かと話題になっている「団塊の世代」の一人で、あと一年半で定年退職です。県立高校の教師として36年間、英語を教えてきました。「夏休みや冬休みがあっていいですね。」とか「公務員は安定していていいですね。」とかよく言われます。確かに教師というのは肉体的にそれほどきつい仕事ではありませんが、ストレスが多く、人が思うほど楽な仕事ではありません。低学力、学力格差、いじめ、不登校等々の問題に追われ、授業が終われば部活動の指導。お前も以前中学校で教育実習をしたときに、教育現場の大変さを実感したことと思います。とにかく目の前にいる生徒のために日々悪戦苦闘の連続でした。自分は教師に向いてないのではないかと悩んだり、教えることに自信を無くしたりしたことも何度かありました。「先生のおかげで英語がわかるようになったよ。」と生徒に言われてやり甲斐を感じ、また頑張ったのです。
ところで、お前にとって仕事とは何ですか。今の仕事は自分に向いているのか、意義のある仕事なのか、将来性はあるのかなど、ふと考えることがあるのではないでしょうか。
お父さんは、仕事とは生活の糧を得るためのものと考えています。どうせ働くなら、給料がよくて、楽しいこと、やり甲斐のあること、人のためになることが良いに決まっていますが、なかなかそうはいきません。現代の日本では、働くことの意義を感じたり、仕事を通じて夢を実現したりすることが難しくなっているような気がします。とにかく目の前にある仕事に全力で取り組んでほしい。でも健康には十分注意しなさい。命を懸けるほど重要な仕事はないのだから。
そういえば、もう二十五歳になったんだね。お母さんがその歳の時にはお前たちを産んで、四人の子供の母になっていました。今のお前には想像できないだろうな。カレシはできたのかな。こんなことを言うと嫌がられると思うけれど、世間の親と同様に、できればお前にも幸せな結婚をしてほしいと願っています。男にとっても女にとっても、自分自身の家庭を築くということは、生涯を通しての人生最大の事業だと思います。お父さんは、お母さんと結婚してお前たちに恵まれ、色々大変なこともあったけれど本当に幸せです。自分が子供時代に経験できなかったことがお前たちと一緒にできました。その最高のものは家族六人で行ったアメリカ旅行。アルバムに写真がいっぱいあります。お前たちはお父さんの誇りです。お母さんもそう思っているはずです。
「もう家に帰ってきたら。」とお母さんは言っています。お前の部屋は東京に旅立ったときのままです。家に帰ってきても、東京で頑張って働き続けても、お父さんは応援します。最愛の娘だから。次に会う日を楽しみにしています。では、元気で。

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